マキサカルシトール事件大合議判決|newpon特許商標事務所

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医薬品分野において特許発明と均等であることを理由として特許権侵害が認められた事例

知財高判2016(H28)・3・25 H27(ネ)10014号 マキサカルシトール事件大合議判決

(原審 東京地判2014(H26)・12・24 H25年(ワ)4040号 裁判所HP)

事実の概要

 原告が被告らの行為が本件特許権(特許第3310301号 発明の名称「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」)を侵害するとして、東京地裁に被告らによる被告製品の輸入、譲渡等の行為の中止等を求めた。原告は、活性型ビタミンD3誘導体であるマキサカルシトールを有効成分とする角化症治療剤を製造販売しており、マキサカルシトールを含む化合物についての特許権は、存続期間の延長登録を経て、平成22年12月26日に存続期間が満了している。
 原審は,控訴人方法が訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係るマキサカルシトールを含む、活性型ビタミンD3誘導体の製造方法に関する発明(以下「訂正発明」という。)と均等であることを認め,また,本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して,原告の請求を全部認容したため,控訴人(原審被告)らが,原判決を不服として,本件控訴をした。
 控訴審の審理中に,上記訂正を認める旨の審決が確定した。

判 旨

 控訴棄却。知財高裁は、大合議審理において,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないものと判断した。

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 1 訂正発明との均等の成否について

 (1) 均等の5要件及び立証責任について

 (ボールスプライン事件最判を引用後)
 「そして,第1要件ないし第5要件の主張立証責任については,均等が,特許請求の範囲の記載を文言上解釈し得る範囲を超えて,これと実質的に同一なものとして容易に想到することのできるものと認定される範囲内で認められるべきものであることからすれば,かかる範囲内であるために要する事実である第1要件ないし第3要件については,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負うと解すべきであり,他方,対象製品等が上記均等の範囲内にあっても,均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当である。」

 (2) 均等の第1要件(非本質的部分)について

 ア 本質的部分の認定について

 「特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 (特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり,訂正発明はそのような例である。),②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。」
 「また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。」

 イ 訂正発明の本質的部分

 訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。

被告標章目録
(ビタミンD構造)
商標権目録
(マキサカルシトール Maxacalcitol)

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 一方,出発物質の20位アルコール化合物の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれであっても,出発物質を,末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入された中間体が合成され,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖を導入することができるということに変わりはない。この点は,中間体の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれである場合であっても同様である。したがって,出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。

 ウ 控訴人方法の第1要件の充足

 控訴人方法は,ビタミンD構造の20位アルコール化合物(出発物質A)を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と同じ化合物(試薬B)と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体(中間体C)を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖をビタミンD構造の20位アルコール化合物に導入するものであるから,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を備えているといえる。
 一方,控訴人方法のうち,訂正発明との相違点である出発物質及び中間体の「Z」に相当するビタミンD構造がシス体ではなく,トランス体であることは,前記エのとおり,訂正発明の本質的部分ではない。
 したがって,控訴人方法は,均等の第1要件を充足すると認められる。

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 (3) 均等の第2要件(置換可能性)について

 控訴人方法における上記出発物質A及び中間体Cのうち訂正発明のZに相当する炭素骨格はトランス体のビタミンD構造であり,訂正発明における出発物質(構成要件B-1)及び中間体(構成要件B-3)のZの炭素骨格がシス体のビタミンD構造であることとは異なるものの,両者の出発物質及び中間体は,いずれも,ビタミンD構造の20位アルコール化合物を,同一のエポキシ炭化水素化合物と反応させて,それにより一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体を経由するという方法により,マキサカルシトールを製造できるという,同一の作用効果を果たしており,訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。

 (4) 均等の第3要件(置換容易性)について

 そうすると,控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)において,訂正発明の目的物質に含まれるマキサカルシトールを製造するために,訂正発明の出発物質における「Z」として,シス体のビタミンD構造の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,この出発物質Aを,訂正発明の試薬と同一の試薬Bと反応させて,トランス体である以外には訂正発明の中間体と異なるところがない中間体Cを生成すること,中間体Cの側鎖のエポキシ基を開環してマキサカルシトールの側鎖を有するトランス体である物質Dを得ること,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,水酸基の保護基を外して,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認められる。
 したがって,控訴人方法は,均等の第3要件を充足すると認められる。

 (5) 均等の第4要件(対象方法の容易推考性)について

 控訴人らは,控訴人方法は,乙4文献に基づき,本件優先日当時容易に推考ができた旨を主張する。しかし,控訴人らの同主張が認められないことについては,原判決の「事実及び理由」の第4の4(1)ないし(6)に判示のとおりであるから,これを引用する。
 したがって,控訴人方法について,均等の第4要件における対象方法の容易推考性は認められない。

 (6) 均等の第5要件(特段の事情)について

 ア 第5要件の判断基準について

  (ア) この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
 なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。
 (イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
 なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。

 したがって,控訴人方法について,均等の第5要件における特段の事情は認められない。

 (7) 小括

 以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,その技術的範囲に属するものと認められる。

 2 訂正発明についての無効理由の有無について

  「そうすると,当業者において,本件試薬を乙14発明と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,相違点2(試薬の相違)に係る訂正発明の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
 (イ) また,当業者において,乙14発明のエポキシド化合物に代えて,訂正発明の中間体であるエポキシド化合物を得ようとする動機付けは,乙14文献にも,本件訴訟に提出された他の公知文献にも記載されておらず,その示唆もない。
 したがって,相違点3(エポキシド化合物の相違)に係る訂正発明の構成についても,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。」

 3 まとめ

  以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等なものとして,訂正発明の技術的範囲に属するものと認められる。また,訂正発明について控訴人らが主張する無効理由はいずれも理由がなく,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
 そして,前記前提となる事実によれば,控訴人製品はいずれも控訴人方法によって製造されたものであるから,控訴人製品1を輸入し又は譲渡する行為及び控訴人製品2を譲渡し又は譲渡の申出をする行為は,いずれも本件特許権を侵害する。したがって,本件特許権の存続期間の延長登録がされる前における存続期間の末日である平成29年9月3日まで,控訴人DKSHに対しては控訴人製品1の輸入又は譲渡の差止め及び廃棄を,控訴人岩城製薬,控訴人高田製薬及び控訴人ポーラファルマに対してはそれぞれ控訴人製品2(1)ないし(3)の譲渡又は譲渡の申出の差止め及び廃棄を求める被控訴人の請求は,いずれも理由がある。

 第5 結論

  以上によれば,被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴はいずれも理由がない。

検 討

 立証責任

 従来から均等の第1要件ないし第3要件の立証責任は均等の主張者にあり、第4要件と第5要件は抗弁権であるという考えがあったが、5要件は均等の主張要件であるのですべて均等の主張者に立証責任があるという主張もあった。
 本判決で初めて、知財高裁が第1要件ないし第3要件は,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負い,第4要件及び第5要件は,均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うことを示した。

 第1要件(非本質的部分)

 これまでの判決では、(非)本質的部分の認定にあたり、イ号物件は考慮することなく、請求項の各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分ける説(技術的特徴説)と、置換されたイ号物件が特許発明の技術的思想の範囲内にあるかによって判断する説(技術的思想(同一)説)に別れていたが、本判決は後者を採用した。
 ボールスプライン事件最判の第1要件から直接には読めないが、一旦本質的部分と認定されれば、一切均等が否定される技術的特徴説ではなく、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定し、特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかにより認定する技術的思想(同一)説に立つ判決は多かった。

※ 技術的特徴説に立つ判決:大阪高判H13・4・19 H11(ネ)2198号「注射方法及び注射装置」裁判所HP

※ 技術的思想説に立つ判決:東京地裁判H11・1・28 H8(ワ)14828号「徐放性ジクロフエナクナトリウム製剤」裁判所HP
     大阪地判H12・5・23 H7(ワ)1110号「召合せ部材取付用ヒンジ」裁判所HP
     東京地判H20・12・9 H19(ワ)28614号「中空ゴルフクラブヘッド」裁判所HP

※ 解決原理同一説に基づき均等を肯定:知財高判H23・3・28 H22(ネ)10014号「地下構造物用丸型蓋」裁判所HP

 第2要件(置換可能性)

 単に、「訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。」と認定している。
 第1要件について技術的思想(同一)説を採用すると、第1要件と第2要件の異同が議論され、両者は同義との考えもある。(田村善之「均等論における本質的部分の要件の意義-均等論は「真の発明」を救済する制度か?-」同『特許法の理論』(2009年・有斐閣)108頁参照)

 第3要件(置換容易性)

 控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)に,訂正発明の出発物質を,シス体の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認定した。つまり、当業者の認識により容易想到性を基礎付けた。
 一方、出願時に既に存在していた他の物質、技術との置換は、出願時に容易に想起できたにもかかわらず、クレームに含めなかったので、当該他の物質等に置換した構成は意識的に除外したものであり、「特段の事情」あたるという(三村量一・髙部眞規子らの)考えがあった。

 第4要件(対象方法の容易推考性)

 「仮想的クレーム」の要件ともいう。本判決により、第4要件の立証責任が被疑侵害者にあることを確認した。

 第5要件(特段の事情)

 特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできるクレームの範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人がクレームに当該他の構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできないが、出願時に,当該他の構成を,クレームに記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,「特段の事情」に当たると判示した。
 そして、「特段の事情」に当たる例として,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているときや,出願人が出願当時に公表した論文等で当該他の構成による発明を記載しているときを挙げた。
 明細書を作成する弁理士の立場としては、今後、明細書に当該他の構成による発明を記載するときには、当該発明をクレームしておくことが必要である。裁判所は、例として、出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときを挙げているが、疑問である。最も、出願前であれば特許要件の問題となり、出願後に公表された論文であれば「特段の事情」にはならないであろう。
 なお、「コンプリートバー vs フレキシブルバー」については論じていない。
※ Festo最高裁判決において、特許性に関する補正が行われた場合に均等論の主張を一切認めないコンプリートバー(complete bar)から、柔軟な均等論の主張を認めるフレキシブルバー(flexible bar)へと均等のルールが変更された。
※ 最高裁第二小法廷判H29・3・24

以 上

 上記検討は、北海道大学教授 田村善之氏の講演(平成28年6月3日、日本弁理士会主催)に感受された。
 最高裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。

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