米国特許法101条(特許適格性 ; 保護適格性) アリス最高裁判決
Alice Corp. Pty. Ltd. v CLS Bank International et al.
No. 13–298. Argued Mrach 31, 2014—Decided June 19, 2014
事実の概要
申立人Alice Corp.は、「決済リスク」、つまり、合意された金融取引の1当事者だけがその義務を満たすという危険を緩和するスキーム、を開示する特許の譲受人である。特許クレームは、第三者の仲介者としてコンピュータ・システムを使用することにより、2当事者間の金融債務の交換を促進するように設計されている。訴訟に係るクレームは、(1)金融債務を交換する方法、(2)債務を交換する方法を実行するように構成されたコンピュータ・システム、および(3)債務を交換する方法を行なうためのプログラムを記録したコンピュータ可読媒体、である。
被申立人(まとめて、「CLS BANK」という。)は、通過取引を促進するグローバルネットワークを運営しており、申立人に対し、問題となっている特許クレームは無効であり、権利主張できない、または侵害していないと主張して、訴えを提起した。Aliceは、反訴を提起し、非侵害を主張した。Bilski v. Kappos, 561U.S.593判決以降、地方裁判所は、すべてのクレームが抽象的アイデアであるとして35 U.S.C. 101条に基づいて特許適格性を否定した。連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷は支持した。
The Federal Circuit, in turn, affirmed. The en banc court rejected its prior test for determining whether a claimed invention was a patentable “process” under Patent Act, 35 U. S. C. §101—i.e., whether the invention produced a “useful, concrete, and tangible result,” see, e.g., State Street Bank & Trust Co v. Signature Financial Group, Inc., 149 F. 3d 1368, 1373—holding instead that a claimed process is patent eligible if: (1) it is tied to a particular machine or apparatus, or (2) it transforms a particular article into a different state or thing. Concluding that this “machine-or-transformation test” is the sole test for determining patent eligibility of a “process” under §101, the court applied the test and held that the application was not patent eligible.
判 旨
最高裁は、CAFC大法廷の判決を支持した。クレームは特許非適格な抽象的概念に導くものであるので、101条のもと特許性を有さない。
Held: Because the claims are drawn to a patent-ineligible abstract idea,they are not patent eligible under §101. Pp. 5–17.
(a) 裁判所は、特許法101条が、特許保護の対象となる主題を定義し、自然法則、自然現象および抽象的アイデアには特許性がないという黙示の例外が含まれることを長い間支持してきた(Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc., 569 U. S.)。101条の例外適用において、裁判所は、特許保護に不適格である「人間の創意工夫における"基本的要素(building block)"」と、これら基本的要素を統合し、創り上げた何かより高いものを区別する必要がある。(Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U. S.参照)このことによって、特許性のある発明に変換される。
(b) このフレームワークを使用して、裁判所は、まず争点のクレームは特許不適格な概念を教示するかどうかを判断しなければならない。もしそうであれば、裁判所は、次に、クレームの要素が、個別および"順序づけられた組み合わせ"の双方を考慮しながら、特許適格な出願に"クレームの本質を変換する"かどうかを問う。
(1) 争点のクレームは、特許不適格な概念、仲介による決済の抽象的アイデアを教示する。"アイデア自体には特許性がない"(Gottschalk v. Benson, 409 U. S. 63, 67)という長年の規則のもと、裁判所は、バイナリコード10進数を純粋な2進形式に変換するアルゴリズム, id., at 71–72; 触媒変換プロセスにおける「警報限界」を計算するための数式, Parker v. Flook, 437 U. S. 584, 594–595; および、最近では価格の変動の財務リスクに対してヘッジするための方法, Bilski, 561 U. S, at 599、を含むクレームは特許不適格であることを発見した。これらのケースに続いて、特にBilskiは、争点クレームが抽象的なアイデアに向けられている。 彼らは、中間決済の概念、すなわち決済リスクを緩和するための第三者の使用に頼っている。 Bilskiのリスクヘッジと同様に、中間決済の概念は「商取引システムで広く普及している基本的な経済慣行」であり、第三者仲介機関(または「決済機関」)の使用は 現代経済の基本的要素(building block)である。したがって、中間決済はリスクヘッジのような、101条の適用範囲を超える「抽象的なアイデア」である。
(2) Mayoフレームワークの第2ステップに移ると、単に一般的なコンピュータの実装を必要とする方法クレームは、その抽象的アイデアを特許適格な発明に変換することができない。
(i) すでに「当該技術分野でよく知られている」方法に「従来のステップを、高い一般性で特定しつつ単に追加すること」は、この変換で要求される発明概念として十分ではない(上記Mayo)。一般に、汎用的なコンピュータによる実装は、「プロセスは抽象的アイデア自体を独占することを目指した起案努力以上である実際的な保証」をする種類の「追加的特徴」ではない。クレームにコンピュータを導入しても、分析は変更されない。
“while adding the words ‘apply it,’”(上記Mayo)という抽象的アイデアを述べるのみならず、抽象的アイデア “‘to a particular technological environment’”(Bilski, supra)の使用を限定することは、特許適格性として十分でない。“apply it with a computer”という言葉を追加しながら抽象的なアイデアを述べることは、同じ不完全な結果をもって、2つのステップを単に組み合わせるだけである。汎用コンピュータで完全に実装することは、一般に、「抽象的なアイデア」自体を独占するために設計された草案作成作業以上の実際的な保証を提供する「追加の特徴」のようなものではない。
(ii) ここでは、代表的な方法クレームは、一般的なコンピュータ上の中間決済という抽象的な概念を実施するように実務者に指示するだけではない。クレーム要素を分けて考慮すると、「シャドー」アカウントの作成と維持、データの取得、勘定残高の調整、および自動化された指示の発行の各段階でコンピュータによって実行される機能は、純粋に従来のものである(Mayo、566 U. S.)順序付けられた組み合わせを考慮すると、「これらのコンピュータコンポーネント」は、各ステップが別々に考慮されているときには、すでに存在していないものを . . .何も追加しない。全体として見ると、これらの方法クレームは、単に汎用コンピュータによって実行される中間決済という概念を暗示している。例えば、コンピュータそのものの機能を向上させたり、他の技術や技術分野を改善することを目的としたものではない。特定されていない汎用コンピュータを使用した仲介決済の抽象的な概念を適用する命令は、抽象的な考えを特許適格発明に変換するのに十分でない。
(3) 申立人のシステムおよび媒体クレームは、実質的には抽象的アイデアに何も加えていないので、それらもまた 101条のもと特許不適格である。申立人は、媒体クレームも方法クレームとともに上昇または下降することを認めた。システムクレームは、方法クレームから実体的に実質的に変わらない。方法クレームは、汎用コンピュータ上で実装された抽象的アイデアを繰り返し述べている。システムクレームは同じアイデアを実装するように構成された一般的で少数のコンピュータのコンポーネントを繰り返している。裁判所は、特許適格性を「草案者の技術(art)に単に依存させる」方法で101条を解釈することに反対することを長い間「警告」してきた(上記Mayo)。システムクレームが特許適格であることを支持することは、まさにその結果である。
検 討
1 Alice特許
Alice(申立人)は、複数の金融リスクのフォームを管理するスキーム特許を有する。代表的な特許5,970,479(以下、「479 特許」)は次のとおりである。
米国特許第5,970,479号(請求項33)方法クレーム:
33. A method of exchanging obligations as between parties, each party holding a credit record and a debit record with an exchange institution, the credit records and debit records for exchange of predetermined obligations, the method comprising the steps of:
各当事者が交換機関に残高記録と負債記録、及び、予め定められた義務交換用の該残高記録と該負債記録を有する当事者間の義務交換方法であって、次のステップを有する:
(a) creating a shadow credit record and a shadow debit record for each stakeholder party to be held independently by a supervisory institution from the exchange institutions;
各利害関係者に対して、監督機関によって前記交換機関から独立して保有されるシャドー残高記録とシャドー負債記録を生成する;
(b) obtaining from each exchange institution a start-of-day balance for each shadow credit record and shadow debit record;
各交換機関から、各シャドー残高記録とシャドー負債記録についての開始日口座残高を取得する;
(c) for every transaction resulting in an exchange obligation, the supervisory institution adjusting each respective party’s shadow credit record or shadow debit record, allowing only these transactions that do not result in the value of the shadow debit record being less than the value of the shadow credit record at any time, each said adjustment taking place in chronological order; and
交換債務債権をもたらす各取引に対し、前記監督機関が、各当事者のシャドー残高記録またはシャドー負債記録を更新し、常時シャドー残高記録の値が、シャドー残高記録の値よりも小さくならないような取引だけを許可し、前記各更新は時系列で実行される;そして、
(d) at the end-of-day, the supervisory institution instructing ones of the exchange institutions to exchange credits or debits to the credit record and debit record of the respective parties in accordance with the adjustments of the said permitted transactions, the credits and debits being irrevocable, time invariant obligations placed on the exchange institutions.
一日の終わりに、前記監督機関が、前記許可された取引に係る調整に従って、前記交換機関の1つに各当事者の残高または負債を残高記録及び負債記録に交換するよう指示し、残高及び負債は取り消し不能であり、前記交換機関においては時間不変条件義務が課される。
この方法クレームは仲介支払いに関するアイデアそのものであり単なる抽象的アイデアにすぎないとした最高裁判断に賛成である。
システムおよび媒体クレームも、実質的には抽象的アイデアに何も加えていないので、同様に特許不適格であるとした。「単に商取引を行う方法を記述するのみのクレームは,どんなクレームであっても 101 条に規定するõプロセスに該当しない」との見解を述べた判事もいる。2 判断方法
次の2ステップの方法を採用した。第1に争点のクレームが特許不適格な概念の一つに関するものか否かを判断し,第2にクレームの構成要素が個別且つ「順序付けられた組み合わせ」の双方においてクレームを特許適格性のあるものに変換しているか否かを判断する方法。
そして、第1ステップで、Bilski事件などの判決に照らして、101条の適用範囲を超える「抽象的なアイデア」に該当すると判断した。この結論に達するにあたり,裁判所は,仲介決済がかなり以前から実践される基本的な経済実務であり,今もなお「近代経済の基本的要素」である証拠引例を挙げている。
第2ステップで、「『クレームが抽象的アイデア自体を独占することを目指した起案努力以上であることを保証する』『追加的特長』」が含まれていないことから,クレームされた発明は単に汎用コンピュータへの実装が必要なだけであり,抽象的アイデアを特許適格性のある発明に変換するものではないとした。課題のクレームが意味するものは,ある不特定の汎用コンピュータを使用した仲介決済という抽象的アイデアを適用するための指示を「著しく超えるものが何もない」1)・・・。判例に鑑み,抽象的アイデアを特許適格性を有する発明に変換するには「不十分」であるとも判示した。
3 USPTO の対応
USPTO は,Alice判決に基づき改訂審査指令2),3),4)を公表した。
このガイダンスでは,クレームが抽象的アイデアに関わるものであるか否かを判断しなければならず,Alice 事件で参照された基本的な経済実務,人間の活動を組織化する特定の方法,「アイデア自体」,及び,数学的関係/数式の4例を提示している。
クレームが抽象的アイデアであるとみなされた場合,次に,クレームの要素(又はその組み合わせ)が,クレームの記載が抽象的アイデア自体を「著しく超える」何かであることを保障するに十分であるか否かを判断しなければならない。
このガイダンスでは,クレームが「・・・抽象的アイデアを適用するための単なる指示を超える」ものであるかを判断することであると説明し,「著しく超える」ものと見なすに十分であろう 3つの限定,「その他の技術又は技術分野を改善すること,コンピュータそのものの機能を改善すること,及び,抽象的アイデアの使用を特定の技術環境に一般的に関連付けることを超える有意な限定であること」,を挙げている。
注記:
1) France Telecom S.A. v. Marvell Semiconductor, Inc., No. 3:2012cv04967 - Document 399 (N.D. Cal. 2015) 争点のクレームが,単に汎用コンピュータで一般的に実施されるものとしての周知の抽象的アイデアを単に記載することを「著しく超えるもの」である,と結論づけた。
2) 101条審査ガイドライン
自然ベースの生成物(nature-based product)がクレームに含まれている場合のMayoテスト(Two-Partテスト)のSTEP 2Aにおいて、自然ベースの生成物が自然の生成物(product of nature)と特定の要件に関する顕著な相違点(markedly different characteristics)がないと判断される場合にはクレームは自然の生成物という101条保護例外のカテゴリー(product of nature exception)に属すると判断される。そして、STEP 2Bにおいて他の構成要素との組み合わせでクレームが全体として例外カテゴリーを顕著に超えたものか否か(significantly more than the exception)を判断する。
3) 101条(特許保護適格性)審査ガイダンスのアップデートバージョン
このガイダンスによって特許保護適格性の例外("judicial exception":以下、単純に「例外」)の1つである抽象的アイデアの定義が詳述された。抽象的アイデアは4つのコンセプトに分類され、それぞれに対する例示がされた。このガイダンスにより、審査官が101条拒絶をするには、明白にその理由を記載しなければならならない。
クレームの概念が、以下の4つのコンセプト(概念)の範疇に属さない場合には審査官は抽象的アイデアというSTEP 2Aの「例外」と判断できない。
A. 基本的な商業上の行為(活動) – “Fundamental Economic Practices”
即ち、経済・商業上の行為であって、例えば、当事者間で交わされる契約、法的義務、或いは、仕事の関係を含む。 基本的なという用語が付いているが旧来のもの、或いは、周知である必要はない。
B. 人の行動を組織化する特定(‘Certain’)の方法 – “Certain Methods of Organizing Human Activity”
社内、社外を問わず、人と人との間の行動に関する概念であって、人間関係、当事者間での決済、社会活動、人の行動を管理すること、法的義務の履行を回避すること、宣伝、営業活動、及び、販売活動、行為、さらには人の精神活動を管理することを含む。
C. アイデア自身 – “An Idea of Itself”
事例化されていない概念、計画、或いは、人の精神活動の過程(思考)、及び、ペンと紙で成す思考のようにアイデア自身のことを言う。アイデアという概念は他のカテゴリーに属する場合もある。例えば、著作権で保護されたメディアにアクセスを許容するのと引き換えに宣伝を表示するというステップはアイデア自身の範疇に属するが、クレームが宣伝を含むので人の行為を組織(体系)化する方法の範疇にも属する。
D. 数式・数学の定理(公式) – Mathematical Relationships/Formulas”
数学の問題の解法手順、数式、数学の定理、及び、計算のような数学の概念を含む。判例に見られるように、数学の概念は自然法則に該当する場合もある。
4) 2016年5月4日付審査官への通知
このメモランダムは2014年IEGで公開された2 PART TESTを変更するものではなく、審査官に当該テストに基づく101条審査の手順を徹底することと、101条拒絶の根拠をOAで明示することの重要性を述べている。
2 PART TESTのSTEP 2Aにおいては、クレームの構成要素の何が「例外」と解釈されるのかを特定し、どの「例外」の範疇に入るのかを明示すること、STEP 2Bにおいては、クレームの何が「例外」以外の構成要素に相当するのかを特定し、なぜ、それらの構成要素を(個別に、あるいは組み合わせて)考慮に入れてもクレーム全体として「例外」を顕著に超えていないかの理由を説明することが重要である。
STEP 2Aにおいて、クレームの構成要素に自然ベースの産物が含まれている場合に、その構成要素が自然の産物に対して、その構造、機能、あるいは、他の特性が顕著に相違しない場合には自然の産物という「例外」の範疇であると判断することを再確認しているが、「顕著に超えた("significantly more than")」と「顕著に異なる("markedly different")」というフレーズに関する説明はない。
参考文献:
1) ALICE 対 CLS 事件における米国最高裁判所判決後の抽象的アイデアに基づく法定主題について (米国弁護士 Frederick E. Cooperrider, Sean M. McGinn 会員 平田 忠雄, 遠藤 和光; パテント2015, Vol.68 No.4)
2) 35 U.S.C. §101 に関する「抽象概念」の例外に基づき、クレームの特許適格性を否定した米国最高裁判所の判決 (Oliff PLC; 2014年7月1日)
以 上
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