AIによる発明_DABUS出願却下処分取消請求控訴事件|NEWPON特許商標事務所

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人工知能(AI)が自律的にした発明の特許性_DABUS事件

知財高判2025(H07)・10・30 R07(行コ)10006 出願却下処分の違法性

原審:東京地判2024(H06)・05・16 R07(行ウ)50001 出願却下処分取消請求事件

事実の概要

1 本件は,控訴人X(原審原告)が人工知能(AI)により自律的にされた発明に係る特許出願をY(特許庁長官)が却下した処分について,Xが却下の取り消しを求めた事案である。

2 Xは,本件出願に係る国内手続において、Yに対し、本件国内書面を提出した。Yは、Xに対し、国内書面に発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じたが、Xがこれに従った補正をしなかったため、本件出願を却下する処分をした。
 本件は、XがYに対し、特許法にいう「発明」はAI発明を含むものであり、AI発明に係る特許出願の手続において発明者の氏名は必要的記載事項ではないから、本件却下処分は違法である旨主張して、その取消しを求めた。
3 原審は、特許法に規定する「発明者」は自然人に限られると解するのが相当であるから、国内書面に「発明者の氏名及び住所又は居所」を記載するよう定める特許法184条の5第1項2号の規定にかかわらず、Xが発明者の氏名を記載しなかったことにつき、Yが補正を命じた上、同条3項の規定に基づき本件却下処分をしたことは適法であるとして、Xの請求を棄却した。Xは、これを不服として控訴した。

本件商標
(本件出願)

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判 旨

 請求棄却。本件処分は適法であり、Xの請求は理由がないとして,原審を維持し,本件請求を棄却した。

争点

⑴ 特許権により保護される「発明」は自然人によってなされたものに限られるか
⑵ 国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項であるか

当事者の主張

 争点に関する当事者の従前からの主張は、別紙「当事者の主張」のとおりであり、Xの補足的主張は次のとおりである。
1 特許法上の「発明」に関する最高裁判決(最高裁第三小法廷昭和44年1月28日判決・民集23巻1号54頁、最高裁第一小法廷昭和52年10月13日判決・民集31巻6号805頁、最高裁第三小法廷平成12年2月29日判決・民集54巻2号709頁、最高裁第一小法廷昭和28年4月30日判決・民集7巻4号461頁)をみても、客観的な反復可能性など客体の面を重視しており、発明が自然人によって創作されたか否かという主体の面は重視されていない。
2 発明が自然人による発明に限定された場合には、AI発明を生み出す意欲が減退する、生み出されても公開されず秘匿される等の弊害も生ずることになり、発明の保護及び利用を図ることにより産業の発達に寄与するという特許法の目的にも反することになる。
3 欧州特許庁を含む諸外国の判断は、あくまでも「発明者」の該当性についてAIは「発明者」に該当しないと判断しているに留まり、いずれの判決も、AI発明の「発明」の該当性についての解釈に基づいて出願を却下したものではない。

裁判所の判断

(1) 特許法上の「発明」と特許を受ける権利について
ア 特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とし(同法1条)、特許権は、同法所定の出願、審査の手続を経て、設定の登録により発生する(同法66条1項)と規定している。すなわち、特許権は、特許法により創設され、付与される権利であり、特許を受ける権利もまた、同法により創設され、付与される権利である。特許法は、特許権及び特許を受ける権利の実体的発生要件や効果を定める実体法であると同時に、特許権を付与するための手続を定めた手続法としての性格を有する。
イ 特許法29条1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者は、 … その発明について特許を受けることができる。」と規定しており、同項の「発明をした者」は、特許を受ける権利の主体となり得る者すなわち権利能力のある者であると解される。
 また、同法35条1項にいう「従業者等」が自然人を指すことは、文言上、同項の「使用者等」に法人、国又は地方公共団体が含まれているのに対し、「従業者等」には法人等が含まれていないことから明らかである。そして、同条3項は、「従業者等がした職務発明」について、一定の場合に特許を受ける権利が原始的に使用者等に帰属する場合があることを定めているが、同項の規定も発明をするのは自然人(従業員等)であることを前提にしている。「特許を受ける権利」の発生及びその原始帰属者について定めた規定は、上記の同法29条1項柱書及びその例外を定める同法35条3項以外には、存在しないから、特許法上、「特許を受ける権利」は、自然人が発明者である場合にのみ発生する権利である。
 そして、本件で問題となっている国際出願に係る国内書面のほか、特許出願の願書(特許法36条1項2号)、出願公開に係る特許公報(同法64条2項3号)、国際出願の国内公表に係る特許公報(同法184条の9第2項4号)、設定登録に係る特許公報(同法66条3項3号)については、いずれも「発明者の氏名」を記載又は掲載するものとされ、それぞれ、特許出願人、出願人又は特許権者について「氏名又は名称」を記載又は掲載するものとされていることと対比しても、発明者については自然人の呼称である「氏名」を記載又は掲載することを規定するものであって、職務発明の場合も含め、発明者が自然人であることが前提とされている。
ウ そうすると、特許法は、特許を受ける権利について、自然人が発明をしたとき、原則として、当該自然人に原始的に特許を受ける権利が帰属するものとして発生することとし、例外的に、職務発明について、一定の要件の下に使用者等に原始的に帰属することを認めているが、これら以外の者に特許を受ける権利が発生することを定めた規定はない。また、同法に定める「特許を受ける権利」以外の権利に基づき特許を付与するための手続を定めた規定や、自然人以外の者が発明者になることを前提として特許を付与するための手続を定めた規定もない。
 したがって、同法に基づき特許を受けることができる「発明」は、自然人が発明者となるものに限られると解するのが相当である。

エ(ア) これに対し、Xは、特許法29条1項柱書は「AI発明については特許を受ける権利が発生しない」などと規定しているわけではなく、法人が発明者とならないとの解釈についても同法35条3項と併せて初めて導き出されるものであり、同項に相当する規定がないAI発明について、同法29条1項柱書のみから、特許を受ける権利が発生しないと解することはできない旨主張する。
 しかし、特許を受ける権利は、特許権と同じく特許法により創設され、付与される権利であるから、権利能力のない存在が発明した発明について特許を受ける権利が発生する旨の規定や、その場合の権利の帰属者を定める規定がないのに、これを否定する規定がないことだけを理由に、特許法上、権利能力のない存在が行った「発明」について特許を受ける権利が発生するとは認められない。
 そもそも、特許法が予定している「特許を受ける権利」の解釈は、特許法29条1項柱書の文言、同法の他の規定の文言との整合性を検討した上でされるべきものであり、検討した結果、同項柱書にいう「発明をした者」が自然人をいうものと解されることは、前記ウのとおりである。したがって、Xの前記主張は理由がない。

(イ) Xは、前記各最高裁判決を引用し、発明が自然人によって創作されたか否かという主体の面は重視されていない等と主張する。しかし、これらの最高裁判決は、いずれも発明の要件としての技術的完成度や自然法則の利用等が問題となった事案であって、「発明」の主体が争点となった事案ではない。確かに、特許法2条1項の規定する「発明」の定義(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)には、発明者が誰であるかという点は明示的に含まれてはいないけれども、特許法上、特許を受けるための手続については、これまで検討したとおり、権利能力のない存在を発明者とする発明について特許を付与するための手続は定められていない。したがって、仮に、Xが主張するように特許法上の「発明」の概念自体は自然人を発明者とする場合に限られないと解したとしても、権利能力のない存在を発明者とする「発明」について、同法に基づく手続により特許権を付与する余地がないことに変わりはない。
(ウ) Xは、AIであるダバスがした発明について、善意の占有者(民法189条1項、205条)又は所有者(同法206条、89条1項)の果実取得権に基づき、本件出願に係る発明についての特許を受ける権利を有していると主張する。
 しかし、発明という情報を客体として保護する場合の財産権の具体的内容は、特許法その他の個別の法律により決まるべき性質のものである。AIは有体物ではないから、所有権の対象にはならず、仮に、AIの使用者が民法205条の規定にいう財産権を行使している者に該当すると考えた場合でも、「AI発明について特許を受ける権利」は、「物の用法に従い収取する産出物」又は「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」(民法88条1項及び2項)のいずれにも該当しない。前記のとおり、AI発明について特許を受ける権利が発生する根拠規定自体存在しないのであるから、現行法上、これを財産権の行使に係る果実に該当するものと解することはできない。そもそも、AIに係る当該財産権の内容として、いかなるものを考えるべきかどうかということ自体、今後の検討課題と言わざるを得ない。特許法が認めていない特許を受ける権利が、これらの民法の規定に基づいて発生すると解することはできず、本件において、民法89条を適用し、又は準用することもできないというべきであるから、Xの主張は失当である。
(エ) Xは、日本の特許法は、英国、オーストラリア又はニュージーランドのように特許を受ける権利の原始的帰属を発明者に限定する趣旨の条文も、米国のように特許出願人となり得る主体を限定する趣旨の条文も定めていないから、特許を受ける権利の原始的帰属や特許出願人となり得る主体が限定されていないと主張する。
 しかし、特許法の解釈として、自然人が発明者となる発明の場合に特許を受ける権利の発生及び原始的帰属が限定されていると解すべきことは、これまで述べたとおりである。

(オ) Xは、特許法の制定当時、AI発明という概念やこれに伴う法律問題は存在しておらず、特許法が自然人による発明のみを前提にして制定されたことは明らかであるから、特許法がAI発明に関する規定を設けていないことは、AI発明の保護を一律に否定する理由にはならないと主張し、また、AI発明は現に誕生して利用され、今後も増加が予想されるから、産業の発達に寄与するという特許法の目的に照らし、できる限り保護を認めるよう解釈運用すべきであって、自然人による発明に限定した場合には、AI発明を生み出す意欲が減退する、生み出されても公開されず秘匿される等の弊害も生ずることになり、産業の発達に寄与するという特許法の目的にも反する等と主張する。
 特許法の制定当初から直近の法改正に至るまで、近年の人工知能技術の急激な発達、特にAIが自律的に「発明」をなし得ることを前提とした立法がなされていないことは、Xが主張するとおりである。
 しかし、特許権は天与の自然権ではなく、「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ことを目的とする特許法に基づいて付与されるものであり、その制度設計は、国際協調の側面も含め、一国の産業政策の観点から議論されるべき問題である。例えば、・・・等の指摘がされている。
 すなわち、AI発明に特許権を付与するか否かは、発明者が自然人であることを前提とする現在の特許権(原則として、特許権は特許出願の日から20年の存続期間を有し、特許権者は業として特許発明を実施する権利を独占し(特許法68条本文)、侵害者に対する差止請求権(同法100条)及び損害賠償請求権を有する等)と同内容の権利とすべきかを含め、AI発明が社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論によって対応することは困難である。Xが主張する発明者を自然人に限定した場合の弊害等も、これらの立法政策についての議論の中で検討されるべき問題である。
 そうすると、本件処分時点(及び現時点)で特許法がAI発明の存在を前提としていないことは、特許権付与によりAI発明を保護するという立法的判断がなされていないことを意味し、この場合において、単純にAI発明を現行制度の特許権の対象とするような法解釈をすることが、直ちに「発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ことにつながるということはできない。
(カ) Xは、TRIPs協定27条1項は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性のある発明について、自然人がしたか否かにかかわらず、特許法上の保護を与える義務を規定しているから、特許法がAI発明の保護を排除していると解釈することは、同協定の規定に反することになる旨主張する。しかし、TRIPs協定には、Xの指摘する27条1項を含め、同項にいう「発明」についての定義はなく、前記(オ)のとおり、近年に至るまで、AIが自律的に「発明」をなし得るという事態は生じていなかったことからすると、同協定がAI発明に特許法上の保護を与える義務を規定していると解することはできない。
オ 以上のとおり、Xの主張は、いずれも採用することができない。

(2) 小括
 したがって、現行特許法は、自然人が発明者である発明について特許を受ける権利を認め、特許を付与するための手続を定めているにすぎないから、AI発明については、同法に基づき特許を付与することはできない。 そうすると、AI発明が特許法上の「発明」の概念に含まれるか否かについて判断するまでもなく、特許法に基づきAI発明について特許付与が可能である旨のXの主張は、理由がない。

争点⑵ 国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項であるか

⑴ 特許法は、国際特許出願の国内手続において、発明者の氏名を記載した国内書面を提出しなければならないと規定し(同法184条の5第1項柱書、2号)、Yは、国内書面の提出に係る手続が経済産業省令で定める方式に違反しているときは、相当の期間を指定して手続の補正を命ずることができ(同条2項柱書、3号)、これを受けた特許法施行規則38条の5第1号は、国内書面の方式として、発明者の氏名を含む特許法184条の5第1項各号に掲げる事項が記載されていることを規定し、Yは、指定した期間内に手続の補正がなされないときは、当該国際特許出願を却下することができると規定しているのであるから(同条3項)、国内書面において「発明者の氏名」が必要的記載事項として規定されていることは明らかである。
(2) Xは、AI発明の出願において、発明者の氏名は必要的記載事項ではないと主張する。 しかし、Xの主張は、権利能力のない存在が行ったAI発明について、特許法上、特許を付与することができると解することを前提とするものであって、この前提において誤っているから、採用することができない。
 なお、Xが指摘する、氏を持たない個人の場合については、名を記載すれば足りると解すべきことはあまりにも当然であるし、法人名を記載した出願の実体審査がなされた事例は、必要的記載事項の要件を看過してなされた事例があるというだけであり、当然ながら、これらの事例が存在するからといって、特許出願手続上、「発明者の氏名」が必要的記載事項ではないと解することはできない。
 また、現行特許法上、発明者は自然人であることが前提とされている以上、出願書類等に記載すべき「発明者の氏名」が自然人であることは当然の論理的帰結である。これと異なる前提に立って、AI発明の出願において「発明者の氏名」を必要的記載事項と解することが憲法14条に違反するとのXの主張は、採用することができない。

(3) Xは、AI発明の出願において発明者の氏名を必要的記載事項とした場合、発明者でない自然人を発明者として記載した出願の増加を招く問題点がある旨主張し、さらに、このような冒認出願に係るAI発明の特許は、冒認を理由とする無効審判の請求権者である利害関係人が存在せず、無効とならない問題点がある旨主張する。
 Xが指摘するこれらの問題は、AI発明の存在を前提としていない現行法の問題点の一つといえるが、発明者の氏名欄の記載を必要的記載事項でないと解すれば解決するものではない。Xの指摘する問題点は、前記のとおり、AI発明に関する立法政策の議論の中で検討されるべき問題であって、現行法の解釈として、発明者の氏名欄の記載が必要的記載事項ではないと解する根拠にはならない。
 なお、X指摘の冒認出願については、特許の拒絶の査定をする理由になる(特許法49条7号)ほか、侵害訴訟において特許無効の抗弁として主張することは可能である(同法104条の3第1項、3項)。AI発明において同法123条2項の利害関係人(特許を受ける権利を有する者)として同条1項6号に該当することを理由に特許無効審判を請求する者が存在しないとしても、それは現行法が予定していなかった事態が生じたというだけで、特許法上、自然人を発明者とする発明についてのみ特許付与が可能である旨の前記解釈を変更する理由にはならない。
(4) Xは、AI発明の出願において発明者の氏名を必要的記載事項と解することは、欧州特許庁の判断と整合しないと主張する。 しかし、X指摘の説示(甲10・段落4.4.1)は、欧州特許出願に発明者を表示すべき旨定めた欧州特許条約81条第1文の解釈について、欧州特許庁が示した判断であって、かつ、結論として発明者適格を有するのは自然人のみであるとした判断の理由の一部であるにすぎず、我が国の特許法の解釈として、国内書面の「発明者の氏名」が必要的記載事項であることを否定する根拠とはならない。
(5) したがって、国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項である。

結 論

 以上のとおり、本件処分は適法であるから、Xの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

検 討

 本判決の結論には賛成。本判決は、AIの名称を発明者として記載した特許出願書面を提出することが、わが国において方式上適法な特許出願と認められるか否かが争われた事例に関する、最初の高裁判決である。この判決によると、
(1) 現行特許法は、自然人が発明者である発明について特許を受ける権利を認め、特許を付与するための手続を定めているにすぎないから、AI発明については、同法に基づき特許を付与することはできない(判旨1:争点⑴)。(2) 国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項である(判旨2:争点⑵)。したがって、AIの名称を発明者とする特許出願は、方式上適法な特許出願といえないから、本件特許出願を却下した特許庁の判断は適法である。
 裁判所は、「AIが自律的に「発明」をなし得ることを前提とした立法がなされていないことは、Xが主張するとおり」であり、「近年に至るまで、AIが自律的に「発明」をなし得るという事態は生じていなかった」と判示する。
 「自律的発明」とは、自然人の関与の度合いが一層希釈化された発明と観念することができるが、この出願発明が自律的発明に当たるか否かについては争われていない。「AI発明が社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論によって対応することは困難である」と判旨されているとおり、早急な検討と立法化が必要である。

以 上

 高等裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。

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