イラストに描かれたキャラクターの類似性 タウンページ・キャラクター事件
知財高判2000(H12)・5・30 H12(ネ)464号 著作権侵害確認請求控訴事件
(原審 東京地判2000(H11)・12・21 H11(ワ)20965号 裁判所HP)
事実の概要
1 原告(控訴人)は、「古本情報」という書籍に別紙目録一記載の「古本物語」という漫画を掲載し、右漫画を、原告が出版を営んでいる「・・・・・ ・・・・・」という書籍に転載した(「原告漫画」)。
2 原告は、平成9年8月2日、被告を著作権法違反の罪名で告訴したが、被告は、同年11月、不起訴処分となった。
3 被告が平成11年3月に発行したハローページ東京都渋谷区版の裏表紙の内側のページは、別紙目録二記載のとおりである(このうち、タウンページと記載されている三体のキャラクターがマンホールから出ている絵及び吹き出しの部分を「被告イラスト」という。)。
本件は、原告が、「被告イラストは、原告漫画に類似しており、原告漫画に依拠して製作されたものである。」と主張して、「本件不起訴処分となった本件に新たに違反が行われたので確認する」ことを求めるとともに、損害の賠償を求める事案である。
4 原審において、原告の請求はすべて却下あるいは棄却されたので、控訴した。
判 旨
当裁判所も、控訴人の本訴請求のうち、本件著作権侵害行為確認請求は不適法であるから却下を免れず、損害賠償請求は理由がないので棄却すべきであると考える。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第四 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
被控訴人CM1について
(一) 控訴人は、被控訴人CM1の上から一番目の枠が、控訴人漫画の二段目の中枠と、キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。
しかしながら、被控訴人CM1の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んでいるかのように見える構図であるのに対し、控訴人漫画の同枠では、二体のキャラクターが一体のキャラクターの上方に位置していることが、一見して明白な構図であって、両者の間に類似性は認められない。控訴人は三体のキャラクターのうち手前に一体が配置されている点において共通性が認められると主張するが、複数のキャラクターのうち強調するものを前方に配置することはよくある一般的な手法にすぎず、この程度のことが共通しているからといって、直ちに両者が類似しているとすることはできない。
また、後方右端のキャラクターの眉毛の形については、両者ともハの字を逆にした形をしているとはいえるものの、控訴人漫画の前記枠では、眉毛の角度が急で怒りの感情を表現していると認められるのに対し、被控訴人CM1の前記枠では眉毛の角度がゆるやかで、使命感を帯びた厳めしさを表現しているものと認められ、そこに怒りの感情を読みとることはできないから、両者のキャラクターの表情は、大いに異なるというべきであり、これらが類似しているとはいえない。また、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現することはよくある一般的な手法であって、このような手法が共通しているからといって、直ちに両者が類似しているとすることはできない。
(二) 控訴人は、被控訴人CM1の上から四番目の枠は、一番目の枠と合わせて見ると、背景の本棚から本が飛び出すというアイディアを用いたものであると見ることができ、控訴人漫画の一段目の左枠とアイディアが共通している旨主張する。しかし、被控訴人CM1の四番目の枠と、一番目の枠とを対比しても、背景の本棚から本が飛び出したことが表現されていると見ることはできないから、両者が類似しているとは認められない。
(三) 控訴人は、被控訴人CM1の上から三番目の枠が、三体のキャラクターが上下にずれた並び方において控訴人漫画の一段目の右枠と類似する旨主張するが、このような並び方はキャラクターの配置としてはありふれたものであって、この程度のことが共通しているからといって直ちに両者が類似しているとすることはできない。そして、控訴人漫画の同枠では、キャラクターがいずれも正面を向いて別の相手を非難していることを表現しているのにのに対し、被控訴人CM1の同枠では、手前のキャラクターが後ろを向いて後方のキャラクターと話をしていることを表現しており、両者の表現は明らかに異なっている。
(四) 以上によれば、被控訴人CM1は、控訴人漫画と類似しているとは認められないから、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM1が控訴人漫画に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。
被控訴人CM2について
(一) 控訴人は、被控訴人CM2の上から二番目の枠が、控訴人漫画の一段目の右枠と、キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。
しかしながら、被控訴人CM2の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んだかのように見える構図であり、左端のキャラクターは後方を向いて他の二体と話し合っていることが伺われるのに対し、控訴人漫画の同枠では、キャラクターは横一列に並んでおらず、二体のキャラクターが一体のキャラクターの上方に位置していることが一見して明白なうえ、いずれのキャラクターも正面を向いて別の相手を非難していることを表現しており、両者の間に類似性は認められない。
また、キャラクターの眉毛の形が類似しているとはいえないこと、そもそも、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現する手法が共通していることをもって、直ちに両者が類似しているとすることができるものではないことは、前記2(一)で説示したところと同様である。
(二) 控訴人は、被控訴人CM2の上から三番目の枠が控訴人漫画の二段目の左枠及び中枠に依拠している旨主張する。しかしながら、控訴人漫画の前記左枠のキャラクター及び中枠の手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をして左手に筆記具を持ち、手前の原稿用紙に文章を記入ないし記入しようとしているのに対し、被控訴人CM2の前記枠では、手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をしておらず、手に筆記具を持たずに手前の手帳類を見ており、同手帳に何かを記入しようとするそぶりを全く見せていないことからすれば、控訴人漫画の前記各枠と被控訴人CM2の前記枠とは類似していないというべきである。控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠の手前のキャラクターと被控訴人CM2の上から三番目の枠の手前のキャラクターとは口が丸形をしている点において共通している旨主張するが、イラストや漫画でキャラクターの口を丸で表現することはよく用いられる一般的な手法であるから、このような手法が共通しているからといって、これを両者が類似していることの根拠とすることはできない。
このほか、控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠と被控訴人CM2の上から三番目の枠につき、キャラクターの配置や眉毛の形が共通している旨主張するが、前記2(一)で説示したところと同様の理由から、両者の間に類似性は認められないというべきである。
(三) 以上によれば、被控訴人CM2は、控訴人漫画と類似しているとは認められないから、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM2が控訴人漫画に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。
被控訴人イラストの独創性に関する主張について
控訴人は、被控訴人イラストがコンピュータを用いて容易に作成できるもので独創性を欠く旨主張するが、仮に被控訴人イラストが独創性を欠くものであったとしても、そのことが同イラストが控訴人漫画に依拠したとの結論に直ちに結びつくものではないから、右主張は主張自体失当である。
検 討
個人(控訴人)がNTT(被控訴人)を訴えたが著作物の類似性が否定された。
控訴人は、控訴人漫画のキャラクターの配置や眉毛の形において、被控訴人のキャラクターが一見横一列に並んでいるかのように見える構図であり、類似すると主張したが、裁判所は否定した。また、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現することはよくある一般的な手法であって、このような手法が共通しているからといって、直ちに両者が類似しているとすることはできないと判示した。
共通部分がアイデア(本に顔を描いて手足を生やすことによる擬人化)にすぎなければ著作物としての類似性は否定される。
以 上
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