地模様商標の登録性 エピライン地模様商標事件
知財高判2000(H12).8.10 H11(行ケ)80 審決取消請求事件
事実の概要
1 本件は,フランスの皮具メーカー,ルイ・ヴィトン Louis Vuitton Malletier(以下「原告」という。)が自社のエピ・ラインと呼ばれる一連の商品に使用される型押し模様(以下「本願商標」という。)を第18類の「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」を指定商品として商標登録出願(商願H05-113583号)をしたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服の審判を請求したところ,特許庁が審判の請求は成り立たないとの(請求棄却)審決(以下「本件審決」という。)をしたため,原告が審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 審決の理由は,次のとおりである。
(1) 本願商標は、青色の横縞風の模様を正方形に描いてなるところ、その模様が単に連続しているため、単なる地模様と認識され得るものであり、本願商標と酷似又は類似する柄を使用した請求人(原告)以外の者の製造販売に係るバッグ等の商品が認められることから、本願商標を指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、単にその商品の型押し柄の一類型であると認識、理解するにすぎず、本願商標は、単に商品の品質(型押し柄)を表示し、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、商標法3条1項3号に該当すると認定判断し、
(2) 請求人は、本願商標は同法3条2項の規定によって登録されるべきであると主張しているが、指定商品に本願商標が使用されているのは、いずれも素材として商品の表面全体にわたった自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない単なる地模様の使用であり、商標の使用とは認められないから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるとは認められないと判断した。
判 旨
請求認容、審決棄却。東京高等裁判所が特許庁の判断を覆して,地模様の登録性を認め,使用による顕著性を認定した事案である。
1 取消事由1(本来的自他商品識別力)について
そして、本願商標は、商品の素材となる皮革に対する型押しと染色によって表示され、商品の全体に使用されるものであることは原告が自認するところであり、この本願商標の商品における現実の使用態様(・・・)を参酌すると、本願商標をその指定商品について使用した場合、一般的にはこれに接する取引者、需要者に、商品の地模様と認識され得るものであると認められる。
ところで、商品の地模様であっても、そこに特徴的な形態ないし特異性が見いだされれば、自他商品の識別機能を有する場合もあり得るものではあるが、乙第1ないし第37号証により認められる原告以外の者の商品の生地、素材の模様や図柄と対比してみても、本願商標は、商品の地模様として普通に使用されている形状及び色彩と明らかに異なった特殊性を有しているとはいい難く、地模様の形態を超えて、それ自体で自他商品識別機能を一般的に果たし得るような特徴的な形態を備えていることを肯定することは困難であるといわざるを得ない。
以上によれば、「本願商標は、その指定商品に使用しても、単に、該商品の品質(型押し柄)を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」とした審決の認定判断部分に誤りがあるとはいえない。
2 取消事由2(使用による顕著性)について
上記(1)の事実を総合すると、本願商標を使用した本件の指定商品は、日本における昭和62年の一般顧客向けの発売以来、審決時の平成10年までの間に多額の売上げを達成し、また、原告による宣伝広告と女性向けの多くの雑誌による多数回にわたる紹介がされており、これらの結果、少なくとも本件の審決時までには、その購買層である女性の需要者の間において、本願商標をその指定商品に用いた場合に、本願商標のみの表示によって、原告の商品であることが広く認識されていたことが認められる。
上記(1)のウの原告が本件訴訟提起後に実施したアンケートの調査結果は、この認定を端的に裏付けるものであるというべきである。また、上記(1)のエの外国の諸団体によるエピ・マークの識別力に関する証明書の内容は、前判示のとおり、世界各国においても原告によってエピ・マークを使用したエピ・ラインの商品が宣伝、販売されており、その結果、エピ・マークが当該国内の需要者や取引者の間において出所識別力を取得するに至っていることを証するものであり、このことは、我が国においても同様の状況にあることを推測させるといえよう。
このように、本願商標は、指定商品に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることが認識することができるものとなったことを肯定することができる。
検 討
商標法は,商標の登録要件としての自他商品役務識別力を要求する。つまり、商標法第3条1項1号から5号までに自他商品役務識別力が認められない場合を具体的に規定し,6号は,総括規定として置かれている。即ち,「前5号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」については商標登録を受けることができない。
審査基準は,商標法3条1項6号(7.地模様からなる商標について)において,
『商標が、模様的に連続反復する図形等により構成されているため、単なる地模様として認識される場合には、本号に該当すると判断する。
ただし、地模様と認識される場合であっても、その構成において特徴的な形態が見いだされる等の事情があれば、本号の判断において考慮する。』
と規定し,地模様からなる商標が例えば使用により後発的に識別力を獲得し得ることを否定していない。
本事件の詳細は、例えば、次の論文を参照されたい。
いわゆる「地模様」の商標登録性と「商標」の定義 鳥羽みさを(パテント2002 Vol.55 No.3)
以 上
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