PITAVA(ピタバ)事件(第3判決)|newpon特許商標事務所

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否 PITAVA(ピタバ)事件(3)

知財高判 2015(H27)・7・23 H26(ネ)10138号 商標権侵害差止等請求事件

(原審 東京地判2014(H26)・11・28 H26(ワ)772号 裁判所HP)

事実の概要

 控訴人(原審の原告)は、薬について商標「PITAVA(標準文字)」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーである。
 被控訴人は,PTPシート包装の各個別の錠剤収容部分(表裏)に,被告標章目録記載の標章(被控訴人標章)を付した,販売名を「 ピタバスタチンCa・OD錠1mg「トーワ」 」とする薬剤を販売している。
 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人の有する本件商標権に基づいて,被告標章目録記載の各標章(「ピタバ」を横書きにした標章。以下「被控訴人標章」などのようにいう。)を付したPTPシートを包装とする薬剤の販売差止めとその廃棄をそれぞれ求めた事案である。

 原判決は,被控訴人による被控訴人各標章の使用はいわゆる商標的使用に当たらないから,本件商標権を侵害するものではないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。

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商標権目録
(本件商標権)
被告標章目録
(被告標章目録)

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 控訴人は,本件控訴の提起後,商標権の分割の申請をし,指定商品を第5類「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とする商標権と指定商品を第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする商標権(以下「本件商標権」という。)に分割した。その後,控訴人は,控訴審において,請求原因を分割後の本件商標権の侵害に変更する旨の訴えの交換的変更をした。

判 旨

 控訴棄却。 裁判所は、「被控訴人が被控訴人各商品の包装に被控訴人標章1~5又は被控訴人標章6~10を付して被控訴人各商品を販売したことは,商標的使用ではなく,いずれにせよ,被控訴人の行為は,本件商標権を使用する権利(商標法25条)の侵害行為(同法36条1項)又は侵害とみなされる行為(同法37条)には該当しない」とし、請求を棄却した。

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 被告標章の使用が商標的使用に当たるかについて(争点1)

 (1) 被控訴人各商品において『ピタバ』の文字部分が強調されているのは,有効成分の語の特徴的部分を強調することによって,他種の薬剤との混同を可及的に防止するという意義を有するにすぎず,被控訴人各商品の販売名の一部であることを超えて,独立の標章ととらえられるものではない。そして,医師等又は薬剤師などの医療関係者にとって,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず(・・・),また,患者にとっても,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず,結局,被控訴人各商品において出所識別機能又は自他商品識別機能を果たし得るのは,被控訴人各商品のPTPシートの耳部分に表示された『トーワ』又は『東和薬品』の文字やロゴマークであると認められる。被控訴人標章1~10が,患者との関係において,有効成分と理解されているのか,あるいは,販売名と理解されているかはさておいて,これらの標章は,他種の薬剤との混同を防止するという識別のために用いられているのであり(患者にとってみれば,その表示の意義を知らないでも,自分が飲むべき薬か否かの区別がつけば十分である。),他社の同種薬剤との混同の防止,すなわち,出所識別又は自他商品識別のために用いられているのではなく,かつ,そのような機能も果たし得ない。
 したがって,被控訴人標章1~10が,本件商標の使用に該当すると認めることはできない。

被告商品
(被告商品)

  (2) 控訴人の主張等について
 ① 控訴人は,『ピタバ』の文字部分に独立した出所表示機能又は自他商品識別機能がある旨を主張するが,上記(2)に認定判断のとおり,『ピタバ』自体には自他商品識別機能又は出所表示機能があるとは認められないから,その商標的使用ということも認め難い。
 控訴人の上記主張は,採用することができない。
 ② 控訴人は,被控訴人もまた医薬品の一般的名称と一部文字を共通にする複数の商標登録出願をしているので,被控訴人は,被控訴人標章1~10の商標的使用を認めている旨を主張する。
しかしながら,被控訴人が他に商標登録出願を行っていることは,被控訴人標章1~10の表示が客観的に商標的使用と認められるか否かとは,直接には関連しない。かえって,証拠(甲10)によれば,控訴人が指摘する被控訴人の商標登録は,いずれも,本件訴訟提起後に集中的にされたものであるから,先発医薬品販売会社からの訴訟提起を事前に防止するとの観点からしたにすぎない,との被控訴人の主張は,十分に信用できる。
 控訴人の上記主張は,採用することができない。
 ③ 控訴人は,患者は,「ピタバスタチンカルシウム」を有効成分の名称とは認識せず,これを販売名と認識するから,被控訴人標章1~10の商標的使用がある旨を主張し,これに沿う証拠として,患者に対するアンケート調査結果(甲25)を提出する。
 しかしながら,上記(2)に認定判断のとおり,患者が「ピタバスタチンカルシウム」を有効成分と正確に認識するか否かは,本件の結論を左右しない。
 本件商標のように,指定商品の需要者に患者のような一般消費者が含まれる場合に,品質,原材料等の出所識別機能又は自他商品識別機能のない表示と認識され得る標章を,特定の取引業者に独占させることは,当該表示,そして,ひいては当該表示が指し示す原材料等そのものを事実上特定の者に独占させることになるから相当とはいえず,商標法のおよそ予定するところではない。そして,上記(2)に認定のとおり,本件商標の指定商品を取り扱う医師等や薬剤師等は,『ピタバ』を,その成分であるピタバスタチンカルシウムの略記として認識できるのである。
 控訴人の主張は,採用することができない。
 ④ なお,控訴人は,『ピタバ』は『ピタバスタチン』の略称として定着しているものではないとして,両者の使用例数に関する証拠(甲17,28)を提出する。
 本件証拠からは,『ピタバ』が『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』の略称,すなわち,一般的な略記であるとまでは認められないが,スタチン剤の一種である『ピタバスタチン』の略記としては,『ピタバ』はまさに自然なものであるところ,前記(1)ア(原判決引用部分)の認定によれば,医師等又は薬剤師等において,『ピタバ』が『ピタバスタチン』を自然に想起させる略記であることは,優に認定できるところである。
 したがって,上記各証拠は,本件の結論を左右するものではない。

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 まとめ

 以上のとおりであるから,被控訴人が被控訴人各商品の包装に被控訴人標章1~5又は被控訴人標章6~10を付して被控訴人各商品を販売したことは,商標的使用ではなく,いずれにせよ,被控訴人の行為は,本件商標権を使用する権利(商標法25条)の侵害行為(同法36条1項)又は侵害とみなされる行為(同法37条)には該当しない。。

検 討

 判決に賛成。

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 判旨について

 被控訴人商品は,PTPシートを包装とする薬剤であり,そのPTPシート包装の各個別の錠剤収容部分(表裏)に「ピタバ」と「スタチンCa」を横書きに上下二段に配して成ります(被控訴人標章)。このような被控訴人標章と本件商標が類似する関係にあり,被控訴人各商品が本件商標権の指定商品と同一であるので,形式的には被控訴人各商品の製造販売は本件商標権の侵害(商標法25条,37条1号)に該当する。

 しかしながら、被控訴人各商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合には,箱に梱包されたままの状態で販売されるから,医療従事者が錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識して購入することはないので、被控訴人各商品が病院,診療所,薬局等の医療従事者へ販売される場合に,PTPシートに付された「ピタバ」の表示が商標的に使用されていないといえる。

 患者が被控訴人各商品のPTPシートに付された「ピタバ」の表示を認識すのは,服用の場面のみならず薬を購入する(薬局で薬剤師から薬を渡される)場面もあるが,その場面における出所表示はPTPシートの耳部分に表示された「トーワ」ないし被告の社名である「東和薬品」の文字やロゴマークである。

 そうすると、被告各商品のPTPシートに付された被告各標章は,商標としての出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできないと考える。(本判決の結論に賛成)

 商標法26条1項6号

 今年4月に施行された改正商標法において新しく商標法第26条1項6号(商標的使用)が規定されたが、本判決は、直接には、その規定を適用していない。

 商標法3条1項3号の無効理由を有する場合

 患者は,「ピタバスタチンカルシウム」を有効成分の名称とは認識せず,これを販売名と認識するから,商標的使用があるとの控訴人の主張に対し,
 『本件商標のように,指定商品の需要者に患者のような一般消費者が含まれる場合に,品質,原材料等の出所識別機能又は自他商品識別機能のない表示と認識され得る標章を,特定の取引業者に独占させることは,当該表示,そして,ひいては当該表示が指し示す原材料等そのものを事実上特定の者に独占させることになるから相当とはいえず,商標法のおよそ予定するところではない。』
 として控訴人標章の商標的使用を否定している点は,これまでの判決にない。独占的適用性は登録要件(商標法3条1項3号)であるが、除斥期間を経過後は、無効審判により商標権を消滅させることはできないが、そのような商標権に基づく権利行使は認められないという考えであろう。

以 上

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