PITAVA(ピタバ)事件(第7判決)|newpon特許商標事務所

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薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否 PITAVA(ピタバ)事件(5)

知財高判 2015(H27)・10・22 H27(ネ)10073号 商標権侵害差止等請求事件

(原審 東京地判2015(H27)・4・27 H26(ワ)766号 裁判所HP)

事実の概要

 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人の有する本件商標権に基づいて,被控訴人標章1~3(いずれも「ピタバ」の3文字を横書きアーチ状に書した標章であり,これらを併せたものが「被控訴人各標章」である。)を付した薬剤の販売差止めとその廃棄をそれぞれ求める(商標法37条1号,36条1,2項)事案である。

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商標権目録
(本件商標権)
標章目録
(被告標章)

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 原判決は,被控訴人による被控訴人標章1~3の使用が商標的使用に該当せず,また,本件商標は公序良俗に反する商標(商標法4条1項7号)であるから本件商標権を行使することはできない(商標法39条,特許法104条の3第1項)として,控訴人の請求をいずれも棄却した。

判 旨

 控訴棄却。裁判所は、『当審における控訴人の主張を踏まえても,被控訴人による被控訴人各標章の使用は商標的使用に該当するとは認められず,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも棄却すべきものと判断する』とし、請求を棄却した。

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 前記第2,1及び上記の認定事実によれば,
①被控訴人各商品の錠剤表面には,「ピタバ」とともに,ほぼ同じ大きさの文字で「アメル」との文字が表示されていること,
②被控訴人各商品のPTPシートには,「 「アメル」 」「 「AMEL」 」など括弧書きで明瞭な出所識別表示が付されていること,
③ピタバスタチンカルシウムは,被控訴人各商品の有効成分の一般的名称であること,
④医療事故防止のために,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする控訴人商品「リバロ」の後発医薬品の名称には,必ず「ピタバスタチンCa(カルシウム)」が含まれ,被控訴人各商品の販売名も,その定めに従っていること,また,この際,他の製剤との混同を招かないと判断される場合には,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能となっていること,
⑤ピタバスタチンが「ピタバ」と略記される例があり,それにより,医療従事者は「ピタバ」をピタバスタチンの意味であると理解すること,あるいは,少なくともピタバスタチンを自然に想起すること,⑥ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする医薬品は,処方せん医薬品であり,医療従事者を通じてしか入手できないこと,
そして,上記③~⑤からみれば,「ピタバスタチン(カルシウム)」又は「ピタバ」だけからでは,医師等又は薬剤師は,これをピタバスタチン(カルシウム)を含む薬剤であるとしか認識できず,どの販売者又は製造者のピタバスタチンカルシウム剤であるか判別できないこと,以上の事実を導くことができる。

  そうであれば,被控訴人各全体標章に着目するか,あるいは,被控訴人各標章に着目するかにかかわらず,「ピタバ」の文字部分は,医療従事者にとって,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず,その結果,患者にとっても,出所識別機能又は自他商品識別機能を有していないと認められる。結局,被控訴人各商品において出所識別機能又は自他商品識別機能を果たし得るのは,被控訴人各商品のPTPシートに表示された「 「アメル」 」又は「 「AMEL」 」の文字であると認められる。
 被控訴人標章1~3が,患者との関係において,有効成分と理解されているのか,あるいは,販売名と理解されているかはさておいて,これらの標章は,他種の薬剤との混同を防止するという識別のために用いられており,かつ,その機能を果たしているにすぎず(患者にとってみれば,その表示の意義を知らないでも,自分が飲むべき薬か否かの区別がつけば十分である。),他社の同種薬剤との混同の防止,すなわち,出所識別又は自他商品識別のために用いられているのではなく,かつ,そのような機能も果たし得ない。

  控訴人は,①患者も需要者等に含めるべきである,②患者は「ピタバ」を有効成分とは認識しない,③有効成分の表示であるならば「ピタバ」と略して表示する必然性はない旨を主張するが,これらの点をどのように解しても,上記結論を左右するものではない。
 以上のとおりであるから,被控訴人標章1~3の表示が,本件商標の使用に該当すると認めることはできない。

商標権目録
(被告商品)

  したがって,被控訴人が被控訴人各商品の包装に被控訴人標章1~3を付して被控訴人各商品を販売したことは,商標的使用ではなく,被控訴人の行為は,本件商標権を使用する権利(商標法25条)の侵害行為(同法36条1項)又は侵害とみなされる行為(同法37条1号)には該当しない。

検 討

 判決に賛成。

 錠剤に刻印された被告標章は、いわゆる「商標的使用」には該当しないとしたものである。錠剤に商標を刻印する使用は、薬剤の出所を表示するために通常使用するものではないので、商標的使用には該当しないと考える。

以 上

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