使用権者による不正使用取消「TOP-SIDER」事件|newpon特許商標事務所

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使用権者による不正使用 TOP-SIDER

知財高判2018(H30)・9・26 H30(ケ)10053 商標権審決取消請求事件

(審決書 取消2016-300561号事件)

事実の概要

1 本件は,商標法53条1項に基づく商標登録取消審判請求において,商標登録を取り消した審決の取消訴訟であり,争点は,登録商標の通常使用権者である株式会社水甚(以下「水甚社」という。)が,商標法53条1項にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」といえるかどうかである。

2 事実の概要

 (1) 原告(被請求人)は,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である
  商  標  TOP-SIDER
  登録番号  第1809362号
  出願日   昭和53年3月28日
  登録日   昭和60年9月27日
  指定商品(役務)
   第16類 紙製幼児用おしめ
   第21類 家事用手袋
   第24類 布製身の回り品,かや,敷布,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布
   第25類 洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,足袋,ショール,スカーフ,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子

 なお,本件商標は,被告の前身会社である「スペリー トップサイダー インコーポレーテッド」(以下「旧会社」という。)を権利者として設定登録されたものであるが,その後, 平成12年5月25日に旧会社から原告(当時の商号は,株式会社ビイエムプランニング)に譲渡されたものである。また,本件商標の当初の指定商品は,「第17類 被服(運動用特殊被服を除く),布製見回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を除く)」であった。
 (2) 被告(請求人)は,商標法53条1項に基づき,本件商標について取消審判請求をし,特許庁は,これを取消2016-300561号事件として審理した。
 (3) 本件審決の理由の要点
 ① 水甚社は,原告から本件商標の使用権を与えられた通常使用権者であると認められるところ,水甚社は,遅くとも平成25年1月28日までに,「TOP-SIDER」の欧文字,ヨットの図形及び雲を想起させる図形からなる,以下の標章(以下「本件使用商標」という。)を付したシャツ(以下「本件使用商品」という。)を株式会社丸井(以下「丸井社」という。)に譲渡し又は引き渡した(以下,水甚社による上記使用行為を「本件使用行為」という。)。
引用商標
(本件使用商標)

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 ② 本件商標と本件使用商標は,「TOP-SIDER」の欧文字の外観,「トップサイダー」の称呼及び「上層部,首脳部」の観念を同じくする,類似の商標である。
 また,本件使用商品は,本件商標の指定商品中の第25類「ワイシャツ類」に含まれる。
 そして,原告は,水甚社による本件使用商品への本件使用商標使用の事実を知っていたものと推認される。
 ③ 混同のおそれについて
 ア 登録第5462438号商標(以下「引用商標」という。)と本件使用商標との類似性の程度について
 引用商標は,以下のとおりの構成からなり,第25類「履物,運動用特殊靴」を指定商品として現在も有効に存在しているものであるところ,引用商標と本件使用商標とは,「SPERRY」の欧文字の有無の差異を有するものの,雲を想起させる図形と,その内側に表した「TOP-」の欧文字,ヨットの図形及び「SIDER」の欧文字の態様を同じくし,かつ,その配置も同じくするものであるから,外観において酷似する。
 また,本件使用商標と引用商標とは,「トップサイダー」の称呼及び「上層部,首脳部」の観念も同じくしており,その類似性の程度は,極めて高い。
引用商標
(引用商権)

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 イ 本件使用商品と引用商標が使用された商品との関連性の程度について
  本件使用商品であるシャツと引用商標が使用された商品である靴(デッキシューズ)は,いずれも身につけて日常に用いる服飾関連の商品であって,需要者は一般消費者であるから,その用途及び品質を異にするものの,販売場所及び需要者を共通にする関連性の高い商品と認められる。
 ウ 引用商標の独創性及び周知性の程度について
  引用商標の構成中の,「SPERRY」の欧文字部分,雲を想起させる図形及びヨットの図形からなる全体の構成は,独創性が高い。
  また,被告の靴(デッキシューズ)の売上げの一部は,平成22年から平成24年までの3年間において約52万足であり,全世界における平成24年から平成29年までの6年間において約100万足であることなどからすると,引用商標は,長年にわたって,被告の商品「靴(デッキシューズ)」について使用をされた結果,本件使用商標が付されたシャツの写真が,丸井社のウェブサイトに掲載された平成25年1月28日の時点において,被告の業務に係る商品「靴(デッキシューズ)」を表示するものとして,日本の取引者及び需要者の間で,一定程度,知られていたものということができる。
  エ 以上に加え,水甚社が,本件商標の構成にない,雲を想起させる図形及びヨットの図形を意図的に付加して,引用商標に酷似する本件使用商標としていることからすると,本件商標の使用態様が,社会通念上,適正な使用の範囲内のものということができず,水甚社は,他人(被告)の業務に係る商品と混同を生ずる行為をしたと認められる。

 (4) まとめ
 本件商標の通常使用権者である水甚社は,本件商標に類似する商標をその指定商品に含まれる商品「シャツ」に使用し,他人(被告)の業務に係る商品「靴(デッキシューズ)」と混同を生ずる行為をしたものであり,かつ,原告がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたということもできないから,本件商標は,商標法53条1項に基づき取り消すべきである。

判 旨

 控訴棄却(請求棄却審決維持)。

 取消事由について

 (1) 引用商標の独創性,本件使用商標と引用商標の類似性の程度
 ア 引用商標は,雲を想起させる図形の内側に,「SPERRY」の欧文字を小さく表し,その下により大きく表記された「TOP-SIDER」の欧文字とヨットの図形を配した構成からなり,欧文字部分,雲を想起させる図形及びヨットの図形からなる全体の構成は,独創性が高いものといえる。
 そして,引用商標について,「SPERRY」と「TOP-SIDER」が2段に分けて記載されていること,「TOP-SIDER」が「SPERRY」に比して明らかに大きく,かつヨットの図形をまたいで目を引くように表示されていること,「SPERRY」,「TOP-SIDER」及び各図形部分との間に称呼や観念上の結びつきがないことからすると,引用商標について,「TOP-SIDER」を要部として抽出することができ,そこから「トップサイダー」の称呼及び「上層部,首脳部」の観念を生じるものといえる(甲75)。
イ 他方,本件使用商標の全体の外観は,「SPERRY」の文字の有無以外は,引用商標と同一である。すなわち,雲を想起させる図形及びヨットの図形の形状,各文字の大きさ,字体及びその配置等のいずれの点でも本件使用商標は引用商標と同一であり,全体の外観において,本件使用商標は引用商標に酷似している。
 また,上記アと同様に,「TOP-SIDER」及び各図形部分との間に称呼や観念上の結びつきがないことなどからすると,本件使用商標についても「TOP-SIDER」を要部として抽出することができ,その場合には,引用商標と同じ「トップサイダー」の称呼及び「上層部,首脳部」の観念を生じる(甲75)。
 ウ 上記のとおり,本件使用商標は,独創性の高い引用商標と類似しており,かつその類似性の程度は極めて高いものといえる。
 (2) 引用商標の周知性について
 上記認定事実からすると,①被告の靴は,昭和46年頃から本件使用行為がされた平成25年1月28日までの間に,日本において「スペリー・トップサイダー」,「スペリートップサイダー」あるいは「トップサイダー」というブランド名で継続的に販売されており,大手のメーカーや靴の小売店などによって全国的に相当数が販売されてきたものと推認されること,②本件使用行為がされた時期に近接した3年間に,引用商標を付した被告の靴が約5万足販売されていること,③引用商標は,被告の靴(デッキシューズ)とともに,本件使用行為に近接する時期である平成19年から平成25年までの間に,合計で10回程度,雑誌で取り上げられたほか,引用商標の要部である「TOP-SIDER」を含んだ欧文字や「TOP SIDER」及びそれを含む欧文字並びにそれらを片仮名読みした文字が多くの雑誌や新聞で被告の靴(デッキシューズ)とともに紹介されるなどしたこと,④辞書や小説にも取り上げられていることが認められる。これらの事実に,引用商標は独創性が高いものであることや丸井社が本件使用商標について上記認定のような紹介文を付していたことも考え併せると,引用商標は,平成25年1月28日頃には,被告の靴(デッキシューズ)を表示するものとして,靴(デッキシューズ)の取引者及びその需要者である一般消費者の間で,広く知られていたものと認められる。
 この点について,原告は,引用商標が表示されていた雑誌の記事は限られたものである上,「トップサイダー」等の文字が掲載されただけでは引用商標の周知性は基礎づけられないと主張する。確かに引用商標が表示された雑誌の記載は,上記認定のとおり限られた数にとどまるが,被告の靴は長年にわたって相当数が販売されてきたと推認されるところ,引用商標は商品である被告の靴にも付されており,また,「TOP-SIDER」,「TOP SIDER」,「トップサイダー」等の表示は,引用商標の要部又はそれを想起させる表示であって,これらの表示が数多く雑誌や新聞に掲載されたことは,引用商標の周知性を基礎づけるものということができる。

 (3) 本件使用商品と引用商標が付された商品との関連性
 本件使用商品であるシャツと引用商標が使用されていた靴(デッキシューズ)は,いずれも身に着けて使用するアパレル製品であって,同じブランドで統一されてコーディネイトの対象となったり,同一の店舗内で販売されたりすることがあるものということができ,現に証拠(甲11,36,44,70)によると,被告の靴が,衣料品店でシャツなどの衣料品と一緒に販売されている事例があることが認められる。また,シャツと靴(デッキシューズ)について,同一の営業主によって製造されることもあり得るものである。
 加えて,本件使用商品は,一般消費者向けのシャツであって,引用商標が付されていた靴(デッキシューズ)も,一般消費者向けの商品であると認められるものである。
 したがって,本件使用商品と引用商標が付された靴とは,販売場所や需要者を共通にするなど高い関連性を有するものということができる。
 (4) 本件商標の使用態様等について
 本件使用商標には,本件商標にはない,雲を想起させる図形とヨットの図形が付加されており,本件使用商標は引用商標と外観上極めて類似したものとなっている。また,本件使用商標は,本件使用商品の襟の部分に付されていたほか,本件使用商品には本件使用商標を記載した下げ札が二つ付されており(甲79),本件使用商標は,取引者や需要者が容易に認識できるような形で使用されていた。
 (5) 「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」かどうかについての判断  以上のとおり,引用商標は,被告の靴(デッキシューズ)を表示するものとして取引者及び需要者の間で,広く知られているところ,本件使用商品であるシャツと引用商標が使用されている靴(デッキシューズ)が関連性の高いものであることや,本件使用商標は,本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形が付加されていて,引用商標と極めて類似するものであることからすると,本件使用商品に接した取引者や需要者たる一般消費者にとって,本件使用商品が被告の業務に係る商品であるとの混同を生じるおそれが十分にあるというべきである。

 結論

 以上のとおり,以上のとおり,商標法53条1項に基づいて,本件商標を取り消すべきとした本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の請求には理由がないから,これを棄却する。

検 討

 本判決に賛成。

 本件商標が取り消されるのは当然であろう。

関係図

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 (参考判決)「混同のおそれ」の解釈について:
 ・東京高裁判 S58・10・19 S57(行ケ)50号「ブラウン」事件
 (参考論文)
 ・廣田美穂「不正使用取消審判規定における主観的要件と「混同」の保護主体に関する検討・考察」(知財管理 Vol.66 No.6 2016)

以 上

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