清酒表示の商標権侵害 白砂青松
知財高判2018(H30)・11・28 H30(ネ)10045 商標権侵害差止等請求事件
(原審 東京地判2018(H30)・4・27 H29(ワ)9779)
事実の概要
本件は,「白砂青松」の標準文字からなる原告商標の商標権(以下「本件商標権」という。)を有する被控訴人が,控訴人がその製造する日本酒(被告商品)に控訴人標章1ないし4を付して販売する行為が本件商標権の侵害に該当する旨主張して,控訴人に対し,商標法36条1項に基づき,控訴人各標章を付した日本酒を含む酒類の販売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,控訴人各標章を付した日本酒に関する宣伝用ポスター,包装等の廃棄及び控訴人のウェブサイトからの控訴人各標章の削除を求める事案である。
被控訴人は,原審において,控訴人が被告商品に被告標章を付して販売する行為が本件商標権の侵害に該当する旨主張して,控訴人に対し,同条1項に基づき,「白砂青松」の標章を付した日本酒を含む酒類の販売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,「白砂青松」の標章を付した日本酒に関する宣伝用ポスター,包装等の廃棄及び上記ウェブサイトからの「白砂青松」の標章の削除を求めたところ,原判決は,被控訴人の請求を全部認容した。
控訴人は,原判決を全部不服として控訴を提起し,被控訴人は,附帯控訴の方式により,当審において,差止めを求める対象を,被告標章を付した被告商品の販売等から控訴人各標章を付した被告商品の販売等に変更するなどの訴えの交換的変更をした。
なお,原判決は,被控訴人の上記訴えの交換的変更により,失効している。
認定事実
(1) 原告及び被告商品
ア 控訴人は,平成11年10月以降,被告商品(表側のラベルに控訴人標章1を,裏側のラベルに控訴人標章3を付した1.8リットル瓶の日本酒及び表側のラベルに控訴人標章2を,裏側のラベルに控訴人標章3を付した720ミリリットルの日本酒)を製造し,販売している。
また,控訴人は,被告商品を収める木箱に控訴人標章4を付している。
イ 原告は,平成18年5以降,原告商標を付した日本酒を販売している。
また,被控訴人は,同年4月19日,原告商標について,第30類「和菓子」及び第33類「日本酒,焼酎,果実酒」を指定商品として商標登録出願をし,平成19年1月12日,本件商標権の設定登録を受けた。
(2) 被告商品の広報及び販売状況等
ア 販売数
平成22年10月1日から平成27年9月30日までの被告商品の販売数は,720ミリリットル瓶について7900本,1.8リットル瓶について4144本である。
イ 販売地域
被告商品の販売地域は,茨城県外にも及んでいるが,その主な販売地域は,茨城県の日立市,水戸市周辺である。
ウ 販売価格
原告商品と被告商品の販売価格(現時点)は,720ミリリットル瓶では原告商品が1413円(税込)であるのに対し,被告商品は1994円(税込)であり,1.8リットル瓶では原告商品が2828円(税込)であるのに対し,被告商品は4104円(税込)である。
エ 被告商品の紹介実績等
被告商品は,平成11年10月10日付け茨城新聞,同月21日付け読売新聞,平成13年5月21日付け茨城新聞に取り上げられ,平成16年11月10日には新潮社「旅」12月号に取り上げられた。また,被告商品は,平成27年8月27日に発表された「The Wonder 500」プロジェクトにおいて日本を代表する商材500の一つに選定された。さらに,被告は,そのホームページ上に被告商品を掲載し,販売している。
(3) 本訴に至る経緯
ア 原告は,平成19年8月20日,被告にメールを送信し,原告が本件商標権を有している旨を指摘し,その後,同年10月にかけて原被告間において協議が行われたが,解決には至らなかった。
イ 原告は,平成28年2月10日付け通知書をもって,被告に対し,原告訴訟代理人を通じて,「白砂青松」の標章を付した被告商品の製造販売を中止するよう求める旨の通知をした。その後,原被告間で和解交渉が行われたが,合意に至らず,被告は,同年4月27日頃,原告に対し,訴訟での解決を図る旨を通知した。
ウ 被控訴人は,平成29年3月24日,東京地方裁判所に本件訴訟を提起した。その間の平成28年5月6日,控訴人は,控訴人標章2とほぼ同様の構成の商標について商標登録出願(商願2016-49449号)をした後,平成29年4月24日付けの拒絶査定を受けたため,同年8月18日付けで拒絶査定不服審判を請求した。
判 旨
控訴棄却。
本件の争点は、(1) 原告商標と控訴人各標章の類否(争点1),(2) 先使用権の有無(争点2),(3) 権利濫用の抗弁の成否である。本判決は,控訴人各標章はいずれも原告商標に類似する商標に当たるから,控訴人による控訴人各標章を付した被告商品の販売行為等は,本件商標権の侵害に該当するとし、請求を棄却した。
1 争点1(本件商標と控訴人各標章の類否)について
(1) 本件商標と控訴人標章1の類否について
ア 原告商標は,「白砂青松」の標準文字からなり,原告商標から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が生じ,「白い砂と青い松」(広辞苑第七版)という観念が生じ,海岸などの美しい風景を連想,想起させる。
イ(ア) 控訴人標章1は,別紙控訴人標章目録記載1のとおり,図形部分と,その上方に毛筆体で横書きした「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
図形部分は,長方形の黒色の枠線の中に,背後に白い山が見える,白い砂浜に松林の続く海岸の風景画を図形化したものであり,図形部分の大きさは,控訴人標章1全体の約5分の4を占めている。
しかるところ,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,図形部分と重なっていないこと,「大観」の文字部分は図形部分の長方形の黒色の枠線からやや離れた上方に配置されていることから,長方形の黒色の枠線で囲まれた図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができる。
また,図形部分の左下部には毛筆体で縦書きした「大観」の署名及び落款印の印影が表記されており,図形部分は,横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画を図形化したものであることが認められるが(乙68ないし82),横山大観作の上記絵画が,原告商標の指定商品「日本酒」の需要者である一般消費者の間に広く認識されるに至っているものと認めるに足りる証拠はないことに照らすと,需要者の多くは,図形部分の風景画は,「白砂青松」の文字部分から連想,想起させる風景を描いたものと認識することはあっても,横山大観作の上記絵画であると認識するものと認めることはできないし,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,図形部分の絵画の作者が横山大観であり,その作品名が「白砂青松」であることを表示するものとして図形部分と一体的な関係にあると認識するものと認めることもできない。
そうすると,図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
次に,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分から全体として「タイカンハクサセイショウ」又は「タイカンハクシャセイショウ」の称呼が生じるが,「大観」の文字部分は,控訴人標章1の上方左端に,「白砂青松」の部分は,「大観」の文字部分よりも大きな文字で控訴人標章1の上方中央にそれぞれ表示され,「大観」の文字部分は「白砂青松」の文字部分よりもやや上方に位置していること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なり,文字の間隔は「白砂青松」の文字部分の方が広いことに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章1の上方中央に毛筆体の大きな文字で表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じること,「白砂青松」の文字部分の下方に表示された図形部分は,需要者の多くによって「白砂青松」の文字部分から連想,想起させる風景を描いたものと認識されることからすると,控訴人標章1が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章1の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
以上によれば,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
(イ) これに対し控訴人は,①控訴人標章1は,被告商品の瓶のラベルに使用されているところ,需要者が店頭で日本酒を購入する場合,日本酒の瓶のラベルにどのような絵柄や文字が記載されているかを確認して商品を識別するから,ラベルに表示されている文字や絵柄は,全体として自他商品識別機能を有しており,しかも,被告商品の瓶のラベルに占める上記絵画部分は,非常に大きいこと,②「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観の自筆のものであり,この文字部分から,通常,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画を連想させるところ,絵画部分は横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であることからすれば,上記文字部分と上記絵画部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
しかしながら,控訴人標章1を構成する図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができることは,前記(ア)認定のとおりである。
また,上記①の点については,日本酒を購入する場合,瓶のラベルにどのような絵柄や文字が記載されているかを確認することがあるからといって,一般に,ラベルに表示されている文字や絵柄が全体としてのみ自他商品識別機能を有しているということはできない。
さらに,上記②の点については,仮に控訴人標章1の「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分が横山大観の自筆のものであったとしても,そのことが需要者である一般の消費者の間に広く認識されるに至っているものと認めるに足りる証拠はない。また,前記(ア)認定のとおり,需要者の多くは,控訴人標章1の図形部分から,その図形部分の風景画が横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であると認識するものと認めることはできない
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) 次に,控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
しかしながら,控訴人標章1を構成する「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができることは,前記(ア)認定のとおりである。
また,前記(ア)認定のとおり,需要者の多くは,控訴人標章1の図形部分から,その図形部分の風景画が横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であると認識するものと認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 原告商標と控訴人標章1の要部である「白砂青松」の文字部分を対比すると,原告商標は,「白砂青松」の標準文字からなるのに対し,控訴人標章1の「白砂青松」の文字部分は,毛筆体の「白砂青松」の文字からなり,字体は異なるが,構成する文字は同一であるあることから,外観において類似するものと認められる。また,原告商標と控訴人標章1の「白砂青松」の文字部分は,いずれも「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が生じる点及び「白い砂と青い松」という観念が生じ,海岸などの美しい風景を連想,想起させる点において同一である。
したがって,原告商標と控訴人標章1の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似するものといえる。
そうすると,原告商標及び控訴人標章1が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章1は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。
(2) 原告商標と控訴人標章2の類否について
控訴人標章2は,別紙控訴人標章目録記載2のとおり,図形部分と,その上方に毛筆体で横書きした「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。控訴人標章2は,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分が並んで表示され,両文字部分の間には1文字分の間隔があるが,それ以外の構成は,控訴人標章1とほぼ同一である。
したがって,前記(1)イで説示したのと同様の理由により,控訴人標章2から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
そして,前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章2の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似することからすると,原告商標及び控訴人標章2が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章2は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。
(3) 原告商標と控訴人標章3の類否について
ア(ア) 控訴人標章3は,別紙控訴人標章目録記載3のとおり,毛筆体で横書きした「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
「大観」の文字部分は,控訴人標章3の左端に,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章3の中央にそれぞれ表示されていること,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分との間には1文字分の間隔があること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なり,文字の間隔は「白砂青松」の文字部分の方が広いことに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章3の中央の目立つ位置に表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じることからすると,控訴人標章3が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章3の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
以上によれば,控訴人標章3から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
(イ) これに対し控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章3から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ(ウ)で説示したとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章3の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似することからすると,原告商標及び控訴人標章3が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章3は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。
(4) 原告商標と控訴人標章4の類否について
ア(ア) 控訴人標章4は,別紙控訴人標章目録記載4のとおり,毛筆体で縦書きした「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
「大観」の文字部分は,控訴人標章4の上方右端に表示され,「白砂青松」の文字部分は,「大観」の文字部分よりもかなり大きな文字で控訴人標章4の中央に表示されていること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なることに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章4の中央の目立つ位置に「大観」の文字部分よりもかなり大きな文字で表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じることからすると,控訴人標章4が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章4の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
以上によれば,控訴人標章4から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
(イ) これに対し控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章4から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ(ウ)で説示したとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章4の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,また,横書きと縦書きの違い及び字体の違いがあるが,構成する文字が「白砂青松」の漢字4文字である点で共通することから,外観は,類似するといえる。
そうすると,原告商標及び控訴人標章4が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章4は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。
(5) 小括
以上のとおり,控訴人各標章はいずれも原告商標に類似する商標であるものと認められる。
2 争点2(先使用権の有無)について
被告は,原告商標の登録出願時において,控訴人各標章は被告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたのであるから,被告は控訴人各標章について先使用権を有すると主張する。
(1) しかし,被告商品の販売数については,上記1(2)アのとおり,取引記録の残っている平成22年10月1日から平成27年9月30日までの5年間で720ミリリットル瓶について年間平均1580本,1.8リットル瓶について829本であると認められ,原告商標の登録出願時の販売数もほぼ同様であったと推認することが相当である。同販売数は,控訴人各標章が需要者の間で周知であったと認めるに足りるに十分なものということはできない。
また,原告登録の出願時の販売地域は主として茨城県内であったと認められるのであり,同時点において茨城県及びその周辺地域においてその市場占有率が特に高かったという事情や同地域の飲食店等の多くで被告商品が提供されていたことをうかがわせる証拠も存在しない。
さらに,被告は,その取引先に対して取引実績に関する照会をしているが (乙39),証拠として提出されたその回答(乙42~51)は10件にとどまり,その中には被告商品の購入がない又は購入数が確認できないとするものも少なからず含まれるのであり,同回答は,控訴人各標章が原告商標の登録出願時に周知であったことを裏付けるに足りるものではない。
(2) 被告は,新聞や雑誌に被告商品が紹介されたことなどをもって,控訴人各標章は原告商標の登録出願時に周知であったと主張する。
しかし, 被告商品の販売開始(平成11年10月)から原告商標の登録出願時(平成18年4月)までの間に被告商品が新聞,雑誌等で取り上げられたのは合計4回にすぎず,これをもって,原告商標の登録出願時において被告標章が周知であったと認めることはできない。
また,被告は,そのホームページ上に被告商品を掲載し,広報を行ったとも主張するが,前記のとおり,被告がホームページを開設した時期を客観的に示す証拠はなく,仮に,その開始時期が原告商標の登録出願前であったとしても,ホームページ上に商品を掲載したことから直ちに控訴人各標章が同時点において周知であったと認めることはできない。
(3) 以上によれば,控訴人各標章は,原告商標の登録出願時において,茨城県及びその周辺地域の需要者の間で広く知られていたということはできない。したがって,先使用権が認められるためには一定地域内で広く知られていれば足りるとの被告の主張を前提としても,被告が先使用権を有すると認めることはできない。
3 争点3(権利濫用の抗弁の成否)について
被告は,原告が,原告商標の登録から約10年以上の間,控訴人各標章が使用されていることを知りながら格別の措置を講じなかったにもかかわらず,平成28年になってその権利行使をすることは権利濫用に当たると主張する。
しかし,商標権を行使するかどうかは権利者の判断に委ねられる事柄であり,前記1(3)記載の認定事実に照らしても,原告が被告に対し控訴人各標章の使用を容認していたにもかかわらず取引上の信義則に反して権利行使に及んだなどの特段の事情は認められない。
また,原告が原告商標を付して原告商品の販売を継続していることは,前記20 のとおりであり,原告が標準文字ではない字体の文字を付して原告商品を販売していることから原告の権利が保護に値しないということもできない。
さらに,被告は,原告が誤認混同を惹起する意図を有していた,虚偽の事実を需要者等に告知,流布したなどと主張するが,いずれも理由がない。
以上のとおり,控訴人各標章を付して被告が被告商品の販売等を行っていること25 に対し原告が原告商標に基づく差止請求をすることが権利濫用に当たるということはできない。
したがって,被告の権利濫用の主張は理由がない。
以上によれば,控訴人による控訴人各標章をラベル又は木箱に付した被告商品の販売行為等は,被控訴人の本件商標権の侵害に該当するものと認められる。
検 討
本判決に賛成。
コメント
原告(被控訴人)は茨城県那珂郡で酒店を営んでいる商標権者河野雅史氏、被告(控訴人)は茨城県日立市で酒造業を営んでいる森島酒造株式会社である。
森島酒造(株)は1999年10月以降「白砂青松」を瓶のラベルに付して日本酒を販売していたが、商標登録出願していなかった。一方、河野商店は2006年から清酒「白砂青松」の販売を開始し、商標登録出願をし、商標登録を受けていた。
森島酒造(株)は、商標の非類似の他、自らに先使用権があること及び河野商店が登録後10年以上経過後に権利主張するのは権利の乱用であることを主張したが、いずれも認められなかった。
森島酒造(株)は「白砂青松」の使用開始時に商標登録出願を怠ったために永年に亘って育ててきたブランドを失ったという(商標登録の重要性を示す)事例である。
以 上
高等裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。