二段書き登録商標と使用商標の同一性 ブロマガ/BlogMaga
知財高判2018(H30)・12・20 H30(ケ)10103 商標権審決取消請求事件
(審決書 取消2016-300722号事件)
事実の概要
1 本件は,エフシーツーインク(原告X)が有する商標権について,株式会社ドワンゴ(被告Y)が商標法50条に基づき不使用取消審判請求をしたところ,特許庁が商標登録を取り消すとの審決をしたため,Xが審決の取消を求めた事案である。
2 事実の概要
(1) Xは,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である
登録番号 第5621414号
出願日 平成24年9月13日
設定登録日 平成25年10月11日
登録商標 ブロマガ/BlogMaga
指定商品(役務)
第42類 インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッカーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提供,インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与,ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,ウェブログ上の電子掲示板用サーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情報の提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供又はこれに関する情報の提供,インターネットホームページを閲覧するための電子計算機の貸与,インターネット上で利用者が交流するためのソーシャルネットワーキング用サーバコンピュータの記憶領域の貸与,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供,インターネット等の通信ネットワークにおいて利用可能な記憶装置の記憶領域の貸与
(なお,平成28年7月11日に,上記指定役務中,「ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供」についての登録を無効とする旨の審決の確定登録がされた。)
(2) Yは,本件商標の登録取消審判請求をし,特許庁は,これを取消2016-300722号事件として審理した。取消審判請求の登録日は平成28年10月31日である。
(3) 特許庁は,平成30年3月22日,「登録第5621414号商標の指定役務中,第42類「インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッカーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提供」についての商標登録を取り消す。」旨の審決(以下「本件審決」という。また,取消しに係る役務を「取消対象役務」という。)をし,出訴期間として90日を附加した。
(4) Xは,平成30年7月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
(5) 本件審決の理由の要旨
Xの使用する,「ブロマガ」の文字からなる商標は,本件商標と社会通念上同一の商標とはいえず,商標法50条に規定する「登録商標」に当たらないし,また,Xは,上記Xの使用する商標を「インターネット検索エンジンの提供」などの取消対象役務に使用していないため,Xが,登録に係る登録商標を取消審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に取消対象役務について使用したことの証明がないから,本件商標の取消対象役務に係る登録は商標法50条により取り消されるべきである。
判 旨
控訴棄却。
本件の争点は、(1) 本件商標と使用標章が同一といえるか,(2) 本件商標を本件商標の登録にかかる役務について使用しているである。本判決は,商標が同一でなく,また,取消対象役務について使用していないとして,本件商標の商標登録を取り消すとした審決を維持した。
1 商標の使用について
(1) 平成28年4月30日当時,Xのウェブサイト(「FC2ブログ>ブロマガランキング」のページ)において,上部に,馬のようなマークの横に太字のゴシック体風の文字で「FC2」,「ブロマガ」の文字が並べて表示されていた。また,本文の最上部に「ブロマガランキング」と表示されていた。このウェブサイトのURLには「blomaga」という文字が含まれていた。上記ウェブサイトの中央部分には,「ブロマガランキング」の文字の下に,1位から順にブログのタイトルが列挙され,ウェブサイトの右側部分には,「ブロマガ検索」との表示の下に「月間ブロマガ」と「単体ブロマガ」を選択するボタン,「キーワード」,「ジャンル」,「価格」,「表示順」の入力ないし選択ウィンドウが配置され,最下段には「検索」ボタンが配置されていた。
上記ウェブサイトは,「ブロマガ」というサービスの対象である有料で閲覧できるブログ記事のランキングを示したものであり,「ブロマガ検索」は,「ブロマガ」というサービスの対象である有料のブログ記事の検索を行うものであるが,Xが提供するFC2ブログに含まれる有料のブログ記事を対象としたものであって,それ以外のウェブサイトの検索をする機能は提供されていない。
(2) 上記(1)に認定した事実によれば,Xは,平成28年4月当時,電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たり,その映像面に「ブロマガ」の文字からなる商標(以下「本件使用商標」という。)を表示して役務を提供していたものであるから,Xは要証期間内に本件使用商標を使用していたものと認められる。
2 商標の同一性について
(1)ア 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,ゴシック体風の「ブロマガ」の片仮名とセンチュリー体風の「BlogMaga」の欧文字を上下2段に配置した商標であり,上段と下段の間は文字の高さの半分程度の間隔があり,上段と下段のフォントの大きさは概ね同じで,上段より下段の方がやや横幅が大きく構成されている。
上段の「ブロマガ」部分からは,「ブロマガ」という称呼が生じる。また,下段の「BlogMaga」部分は,「Maga」が大文字の「M」で始まること,「dog」,「frog」のような「og」の語尾を持つ一般的な英語で「g」の発音を省略することはないこと,「Blog」はウェブログの省略語として浸透している「ブログ」を想起させることから,全体として「ブログマガ」という称呼が生じるものと認められる。そうすると,本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じるといえる。
また,「ブロマガ」及び「BlogMaga」はいずれも造語であり,特段の観念を生じるとは認め難く,本件商標からは特段の観念を生じない。
イ 他方,本件使用商標は「ブロマガ」の文字のみからなるものであるから,本件商標とは使用する文字の一部が共通するものの,外観,観念及び称呼のいずれについても同一とはいえない。
ウ 以上に照らせば,本件使用商標について,本件商標の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標(本件商標)と社会通念上同一と認められる商標」ということはできない。
エ また,Xは,XのウェブサイトのURL中の「blomaga」の文字の使用について,本件商標と「社会通念上同一の商標」の「使用」に当たると主張するが,仮にURLにおける「blomaga」の使用が商標法50条1項所定の「商標」の「使用」に当たるとしても,「blomaga」は本件商標と外観,観念及び称呼のいずれにおいても同一とはいえないことは本件使用商標と同様であるから,本件商標と「blomaga」の文字からなる「商標」が「社会通念上同一」であるとは認められない。
(2) Xの主張について
ア Xは,欧文字の称呼については,特定の発音に固執せず,ある程度幅のある発音を念頭に,日本における一般的な認識や連想等を含めて,総合的に判断すべきであるとして,「HongKong」,「Pnig-Pong」,「Sign」,「Foreign」のように「g」を発音しない例がしばしば存在する一方,「King Kong」では「g」を発音するという風に日本で欧文字を読む際に「g」を発音する場合と発音しない場合があること,2語からなる外来語や固有名詞等の略語の生成において各語の冒頭の二拍ずつ取るのが基本であることから,本件商標の下段の「BlogMaga」部分は「ブロマガ」の称呼を生じると主張する。
しかし,Xが指摘する「g」を発音しない例は「ng」,「gn」という語尾を有するから本件商標の欧文字部分には妥当しないし,造語の欧文字である「BlogMaga」からX主張の略語が生じるとも認められない。
さらに,Xは,社会一般では「BlogMaga」の表記を「ブロマガ」と記載していることが多いと主張するが,Xがその立証のために提出した証拠(甲36~38)から,社会一般において「BlogMaga」を「ブロマガ」と表記していることは認められない。また,上記(1)アのとおりの本件商標の構成からは「ブロマガ」が「BlogMaga」の表音であるとは認め難い。
イ Xは,「BlogMaga」は,「Weblog」の略語である「Blog」と雑誌を意味する「Magazine」の略語である「Maga」が結合された造語であり,いろいろなブログを配信するサービスという観念が生じ,「ブログ」と「マガジン」の略語が結合した「ブロマガ」からも,いろいろなブログを配信するサービスという観念が生じるから,「BlogMaga」と「ブロマガ」から生じる観念は同一であると主張する。
しかし,本件商標の「ブロマガ」は4文字の造語で,同種同大のフォントが均等の間隔で配置されていることからすれば,「ブロ」の部分を分離して観念を想起し得るかは疑問であり,「ブロマガ」からブログとマガジンの略語の結合を想起するとはいえない。したがって,「BlogMaga」と「ブロマガ」がブログとマガジンの略語が結合したものとして理解され,同一の観念を生じさせるとは認められない。
Xは,「ブロマガ」と「BlogMaga」がいずれもXのサービスを示すものとして,同一の観念を生じさせるとも主張するが,Xのサービスが「BlogMaga」と認識されていたことを示す的確な証拠はないし,Xが需要者の間でXのサービスは「ブログマガ」とは認識されていなかったと主張していることからしても,Xの上記主張は採用できない。なお,Xは,「ブロマガ」はXのサービスを示すものとして周知であったとも主張するが,このことから,「BlogMaga」と「ブロマガ」から同一の称呼及び観念を生じることにはならない。
3 以上のとおり,取消対象役務について本件商標の商標登録を取り消すべきであるとした本件審決に誤りはなく,Xの請求は理由がないからこれを棄却する。
検 討
本判決に賛成。
ウェブサイトにて使用されている標章「ブロマガ」が登録商標(本件商標)と社会通念上同一ではないと判断された。
つまり、特許庁及び知財高裁のいずれにおいても、いわゆる二段書き登録商標の上段部分「ブロマガ」のみの使用は、当該登録商標の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」には該当しないため、当該登録商標の使用には該当しないと判断された。
判決の『本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じる』といえるとの部分については疑問であるが、結論は妥当であろう。
本件商標の欧州文字部分が「BlogMaga」ではなく「BloMaga」であった場合に結論がどうなるか興味があるが、二段書き商標を有する商標権者はその使用に注意を要する。
以 上
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