リツイート画像の自動トリミングが著作者人格権侵害に当たるとされた事例
最高裁第三小法廷判 2020(R2)・7・21 H30(受)1412 発信者情報開示請求事件|PDF
(原審 東京高判H30・4・25 H28(ネ)10101)
事実の概要
1 本件は、第1審判決別紙写真目録記載の写真(「本件写真」)の著作者である被上告人が,ツイッターのウェブサイトにされた投稿により本件写真に係る被上告人の氏名表示権等を侵害されたとして,ツイッターを運営する上告人に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,上記投稿に係る発信者情報の開示を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係は次のとおり:
(1) 被上告人は,写真家であり,本件写真の著作者である。上告人は,ツイッターを運営する米国法人である。
(2) 被上告人は,H21年,本件写真の隅に「©」マーク及び自己の氏名をアルファベット表記した文字等を付加した画像(「本件写真画像」)を自己のウェブサイトに掲載した。
(3) H26年12月,原判決別紙アカウント目録記載「アカウント2」のツイッター上のアカウントにおいて,被上告人に無断で,本件写真画像を複製した画像の掲載を含むツイートが投稿された。これにより,本件元画像が,本件画像ファイル保存用URLの画像ファイルとしてサーバーに保存された。
(4) その後,アカウント3~5のツイッター上の各アカウントにおいて,それぞれ,上記(3)のツイートのリツイートがされた。これにより,不特定の者が閲覧できる各アカウントの各タイムラインに,それぞれ本件各表示画像が各リツイート記事の一部として表示されるようになった。本件各表示画像は,本件元画像の上部及び下部がトリミング(一部切除)された形となっており,そのため,本件氏名表示部分が表示されなくなっている。
(5) 本件各アカウントの各タイムラインに本件各表示画像が表示されるのは,各リツイートにより同各タイムラインのウェブページに本件画像ファイル保存用URLの本件元画像ファイルへのリンク(いわゆるインラインリンク)が自動的に設定されるためである。
すなわち,本件各リツイートがされることによって,自動的に,上記リンクを指示する情報及びリンク先の画像の表示の仕方(大きさ,配置等)を指定する情報を記述したHTML等のデータが,本件各ウェブページ(リンク元のウェブページ)に係るサーバーの記録媒体に記録される。インターネットを利用してウェブサイトを閲覧する者(「ユーザー」)が本件各ウェブページにアクセスすると,自動的に,①本件リンク画像表示データが,本件各ウェブページに係るサーバーから同ユーザーの端末に送信され,②これにより,同ユーザーの操作を介することなく,本件元画像のデータ(リンク先のファイルのデータ)が,本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから上記端末に送信され,③上記端末の画面上に当該画像が上記指定に従って表示される。上告人が提供しているツイッターのシステムにおいては,リンク先の画像の表示の仕方に関するHTML等の指定により,リンク先の元の画像とは縦横の大きさが異なる画像やトリミングされた画像が表示されることがあるところ,本件においても,これにより,本件各表示画像は,上記(4)のとおりトリミングされた形で上記端末の画面上に表示され,本件氏名表示部分が表示されなくなったものである。
判 旨
上告棄却
・・・そうすると,同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。
したがって,本件各リツイート者が,本件各リツイートによって,上記権利の侵害となる著作物の利用をしていなくても,本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは,著作権法19条1項の「著作物の公衆への・・・提示」に当たるということができる。
そして,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。・・・ そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。
・・・本件においては,本件リンク画像表示データの流通によって被上告人の権利が侵害されたものということができ,本件各リツイート者は,「侵害情報」である本件リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる。
以上によれば,本件各リツイートによる本件氏名表示権の侵害について,本件各リツイート者は,プロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当し,かつ,同項1号の「侵害情報の流通によって」被上告人の権利を侵害したものというべきである。
裁判官戸倉三郎の補足意見は、次のとおりである。
私は,多数意見に賛成するものであるが,事案に鑑み,若干補足して意見を述べる。
1 本件各リツイート者は,本件写真画像が無断で掲載されたツイート(「本件元ツイート」)をリツイートしたところ,ツイッターのシステムの仕様により,本件各アカウントの各タイムラインに本件各リツイート記事の一部として,本件写真画像(本件元画像)の上下がトリミングされて本件氏名表示部分が表示されなくなった本件各表示画像が表示されたものである。本件元ツイートに掲載された画像も,同様にツイッターのシステムの仕様により,本件写真画像(本件元画像)の上下がトリミングされて本件氏名表示部分が表示されなくなった画像として表示されたものではあるが,本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,新たに本件各アカウントの各タイムラインに本件氏名表示部分のない本件各表示画像を表示させ,本件写真について被上告人がしていた著作者名の表示をしなかった以上,本件氏名表示権を侵害したものといわざるを得ない。
もっとも,このような氏名表示権侵害を認めた場合,ツイッター利用者にとっては,画像が掲載されたツイート(「元ツイート」)のリツイートを行うに際して,当該画像の出所や著作者名の表示,著作者の同意等に関する確認を経る負担や,権利侵害のリスクに対する心理的負担が一定程度生ずることは否定できないところである。しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッターを利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならないであろう。
そもそも,元ツイートに掲載された画像が,元ツイートをした者自身が撮影した写真であることが明らかである場合には,著作者自身がリツイートされることを承諾してツイートしたものとみられることなどからすると,問題が生ずるのは,出所がはっきりせず無断掲載のおそれがある画像を含む元ツイートをリツイートする場合に限られる。また,元の画像に著作者名の表示がないケースでは,著作者が当該著作物について著作者名の表示をしないことを選択していると認められる場合があるであろうし,元の画像に著作者名の表示があってリツイートによりこれがトリミングされるケースでは,リツイート者のタイムラインを閲覧するユーザーがリツイート記事中の表示画像を通常クリック等するといえるような事情がある場合には,これをクリック等して元の画像を見ることができることをもって著作者名の表示があったとみる余地がある(・・・)。さらに,著作権法19条3項により,著作者名の表示を省略することができると解される場合もあり得るであろう。そうすると,リツイートをする者の負担が過度に重くなるともいえないと思われる。
2 他方,本件各リツイートにより,本件各アカウントの各タイムラインに本件元画像の上下がトリミングされて本件氏名表示部分が表示されなくなった本件各表示画像が表示されたのは,ツイッターのシステムの仕様がそのような処理をするようになっているためであり,本件各リツイート者が画像表示の仕方を変更することもできなかったものである。
そうすると,今後も,そのような仕様であることを知らないリツイート者は,元の画像の形状や著作者名の表示の位置,元ツイートにおける画像の配置の仕方等によっては,意図せざる氏名表示権の侵害をしてしまう可能性がある(・・・)。ツイッターは,社会各層で広く利用され,今日の社会において重要な情報流通ツールの一つとなっており,国内だけでも約4500万人が利用しているとされているところ,自らが上記のような状況にあることを認識していないツイッター利用者も少なからず存在すると思われること,リツイートにより侵害される可能性のある権利が著作者人格権という専門的な法律知識に関わるものであることなどを考慮すると,これを個々のツイッター利用者の意識の向上や個別の対応のみに委ねることは相当とはいえないと考えられる。著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される。
裁判官林景一の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見と異なり,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件氏名表示権を侵害したとはいえず,原判決のうち本件各リツイート者に係る発信者情報開示請求を認容した部分を破棄すべきであると考える。その理由は以下のとおりである。
1 原審は,本件各表示画像につき,本件写真画像(本件元画像)がトリミングされた形で表示され(「本件改変」),本件氏名表示部分が表示されなくなったことから,本件各リツイート者による著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害を認めた。しかし,本件改変及びこれによる本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人である。これに対し,本件各リツイート者は,本件元ツイートのリツイートをするに当たって,本件元ツイートに掲載された画像を削除したり,その表示の仕方を変更したりする余地はなかったものである。
また,上記のような著作者人格権侵害が問題となるのは著作者に無断で画像が掲載される場合であるが,本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。
以上の事情を総合的に考慮すると,本件各リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができないと考える。
2 ツイッターを含むSNSは,その情報の発信力や拡散力から,社会的に重要なインフラとなっているが,同時に,SNSによる発信や拡散には社会的責任が伴うことは当然である。その意味で,画像そのものが法的,社会的に不適切であって,本来,最初の投稿(元ツイート)の段階において発信されるべきではなく,削除されてしかるべきであることが明らかなもの(例えば,わいせつ画像や誹謗中傷画像など)については,その元ツイートはもとより,リツイートも許容されず,何ら保護に値しないことは当然である。しかしながら,本件においては,元ツイート画像自体は,通常人には,これを拡散することが不適切であるとはみえないものであるから,一般のツイッター利用者の観点からは,わいせつ画像等とは趣を異にする問題であるといえる。多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。そうした事態を避けるためにも,私は,上記1の結論を採るところである。
検 討
本判決に反対。林景一裁判官の意見賛成。
コメント
1 本件は、インターネットサービス「ツイッター」において,被上告人(一審原告)の著作物である写真が,①第三者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ,当該第三者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと,②複数の第三者らにより無断で上記ツイートのリツイートがされ,当該第三者らのアカウントのタイムラインに表示されたことにより,原告の写真についての著作権及び著作者人格権が侵害されたと主張して,原告がツイッタージャパン及び米国ツイッター社に対し,プロバイダ責任制限法4条1項に基づく情報の開示を求めた事案である。
原審(知財高裁)は,写真画像がトリミングされた形で表示され,氏名表示部分が表示されなくなったことから,上記①及び②について著作者人格権の侵害があると判断した。
上記①については、著作者に無断で写真を公衆送信したのであるから、当該ツイート者の行為は著作権侵害に該当する。問題は、②のリツイートである。これまでは一般に、インラインリンクは著作権侵害には当たらないと考えられてきた(例えば、ロケットニュース24事件大阪地裁判決)。リツイートもインラインリンクの一つである。
最高裁は,元画像がトリミングされた形で表示(改変)され,氏名表示部分が表示されなくなったことから,リツイート者による著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害を認めた。しかし,この件改変は,ツイッターのシステムによるものであって,このような画像表示の仕方を決定したのは,ツイッター社(上告人)である。このような改変の主体がリツイート者であるとの判断には疑問がある。
2 なお、下の写真は、ツイート画像(上左)とそのリツイート画像(上右)である。その画像をクリックすると元画像(下右)と同様なクリック画像(下左)を見ることができるのは、判決文に記載されているとおりである。
(参考)
原告のウェブサイト
林景一氏のツイッターサイト
以 上
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