「氷山印」事件|newpon特許商標事務所

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商標の類否判断について 「氷山印(しょうざん)」事件

最高裁第三小法廷判1968(S43)・2・27 S39(行ツ)110号 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求事件pdf

原審 東京高裁 S37年(行ナ)第201号)

事実の概要

 本件は、硝子繊維糸の商標としての「氷山印」と「しょうざん」との類否についてである。

1 被上告人Y(原審の原告)は、昭和34年9月23日特許庁に対し、黒色の円形輪廓内を上下に三分して、上半部は淡青色の空を、下半部は濃青色の海をあらわし、その中央部には海面に浮き出た氷山の図形を自色と淡青色とをもつて明瞭に描いた図形において、上部周縁に沿つて黒く縁取りした白抜きの「硝子繊維」の文字と、氷山図形の下に黒く縁取りした白抜きの「氷山印」の文字と、さらに、下部周縁部に沿つて「日東紡績」の自抜きの文字とを記して成る文字と図形と色彩との結合にかかる標章(以下本願商標という。)について、指定商品を旧第26類「硝子繊維糸」として、商標の登録出願(昭和34年商標登録願第28641号)をしたところ、昭和32年10月5日、これより先昭和25年7月26日登録の「しようざん」の文字を、そのうち「し」と「ん」の文字だけやや大きくあらわし、左横書きにして成り、指定商品を旧第26類「糸」とする登録第553483号(以下引用登録商標という。)を引用して、拒絶査定がされた。そこで、Xは、この拒絶査定を不服として、同年11月14日抗告審判の請求(昭和35年抗告審判第2068号)をしたが、特許庁は、昭和37年9月27日右請求は成り立たない旨の審決をし、同審決の謄本は同年10月15日原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨は、「本願商標からは『ひようざん』、引用登録商標からは『しようぎん』なる称呼を生ずることはそれぞれ上記の構成に徴し明らかなところ…… この両者の称呼を比較するに前者の『ひようざん』と後者の『しようざん』とは語頭において『ひ』と『し』の相異があるが、これとて僅かに舌音の間に存する微差に過ぎないばかりでなく、その接続母音を共通にするから他の四音を共通にする両者はこれを一連に称呼すると音調相近似し全体としての称呼において彼此相紛れるおそれある類似の商標と認めるのが取引の実験則に照して相当である。 しかも両者は指定商品においても相抵触するものであるから、本願商標は旧商標法(大正10年法律第99号)2条1項9号に該当し、これを登録することができない。」というのである。
3 そこで、Yは、特許庁がした上記審決の取り消しを求めて、東京高等裁判所へ提訴した。(原審:東京高等裁判所判決/S37年(行ナ)第201号商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求事件)。

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本件商標
(本件商標)
引用商標
(引用商標)

 原審は、昭和39年9月29日、特許庁の審決を取り消した。判決の要旨は次のとおり:
(1) 硝子繊維系の商標として氷山の図形と「氷山印」との文字等より成る本願商標は、当該商品が一般市民を直接の取引の相手方とせず、特定範囲の取引者によつて取引されるとう事情および次にかかげるような称呼類否判断の基準にかんがみるときは、単に「しようぎん」の文字から成る商標と類似するものではないと解される。
(2) 商標の称呼類否の判断をするにあたっても、その商標を構成する文字、図形または記号もしくはこれらの結合またはこれららと色彩との結合から生ずる称呼にもとづいて判断すべき、単に対比しようとする両者の語音を抽出して類否を対比決定するだけで十分とすることができず、場合によつては外観および観念の差異をも考慮すべきである。
4 上告人X(原審被告、特許庁)は、これを不服として上告した。
【上告理由】
ア.原判決は商号取引一般の経験則を商標の類否の判断に適用する過誤をおかしている。
イ.原判示が認定する硝子繊維糸取引の実情は、実験則といえるほどの普遍性も固定性もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去の一時的変則的な取引状況である。

判 旨

 上告棄却。審決の取消し。

 1 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。

 ところで、本件出願商標は、硝子繊維糸のみを指定商品とし、また商標の構成のうえからも硝子繊維糸以外の商品に使用されるものでないことは明らかである。従つて、原判決が、その商標の類否を判定するにあたり、硝子繊維糸の現実の取引状況を取りあげ、その取引では商標の称呼のみによつて商標を識別し、ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行なわれないものと認め、このような指定商品に係る商標については、称呼の対比考察を比較的緩かに解しても、商品の出所の誤認混同を生ずるおそれがない旨を判示したのを失当ということはできない。

 論旨は、これに対して、原判決は商号取引一般の経験則を商標の類否の判断に適用する過誤をおかしたものと非難するが、原判決は、硝子繊維糸の取引において、商標が商品の出所を識別する機能を有することを無視したわけではなく、そこには商標の称呼の類似から商品の出所の混同を生ずるというような一般取引における経験則はそのままには適用しがたく、商標の称呼は、取引者が商品の出所を識別するうえで一般取引におけるような重要さをもちえない旨を判示したものにほかならない。論旨は原判示を正解しないものというべきである。

 また論旨は、硝子繊維糸取引の実情に関する原判示をもつて、それは実験則といえるほどの普遍性も固定性もないもので、新製品開発当初の特殊事情に基づく過去の一時的変則的な取引状況のように主張するが、原判決がその挙示の証拠および弁論の全趣旨によつて適法に認定したところは、本件出願商標の出願当時およびその以降における硝子繊維糸の取引の状況であつて、かつ、それが所論のように局所的あるいは浮動的な現象と認めるに足りる証拠もない。所論によつては本件出願商標の登録を拒否しえないものといわなければならない。

 2 商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。

 本件についてみるに、出願商標は氷山の図形のほか「硝子繊維」、「氷山印」、「日東紡績」の文字を含むものであるのに対し、引用登録商標は単に「しようざん」の文字のみから成る商標であるから、両者が外観を異にすることは明白であり、また後者から氷山を意味するような観念を生ずる余地のないことも疑なく、これらの点における非類似は、原審において上告人も争わないところである。そこで原判決は、上記のような商標の構成から生ずる称呼が、前者は「ひようざんじるし」ないし「ひようざん」、後者は「しようざんじるし」ないし「しようざん」であつて、両者の称呼がよし比較的近似するものであるとしても、その外観および観念の差異を考慮すべく、単に両者の抽出された語音を対比して称呼の類否を決定して足れりとすべきでない旨を説示したものと認められる。そして、原判決は、両商標の称呼は近似するとはいえ、なお称呼上の差異は容易に認識しえられるのであるから、「ひ」と「し」の発音が明確に区別されにくい傾向のある一部地域があることその他諸般の事情を考慮しても、硝子繊維糸の前叙のような特殊な取引の実情のもとにおいては、外観および観念が著しく相違するうえ称呼においても右の程度に区別できる両商標をとりちがえて商品の出所の誤認混同を生ずるおそれは考えられず、両者は非類似と解したものと理解することができる。原判決が右両者は称呼において類似するものでない旨を判示した点は、論旨の非難するところであるが、硝子繊維糸の取引の実情に徴し、称呼比考察を比較的緩かに解して妨げないこと前叙のとおりであつて、この見地から右の程度の称呼の相違をもつてなお非類似と解したものと認められる右判示を、あながち失当というべきではない。

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検 討

 本件は,商標の類否判断を示したリーディングケース(最高裁判決)である。

 1.類否判断の原則

商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、
しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断

 2.商標の外観、観念または称呼の類似

その商標を使用した商品について
出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、3点のうちその1において類似するものでも、他の2点において著しく相違すること
その他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。

 審判照会(抗告昭35-003068)

 本件審決です。取消前(第1頁)および取消後(第2頁)です。取消後の審決では、引用商標からは、「焼き損なう」ことを意味する「焼残」の観念が生ずるので、『両者には称呼および観念において「ひょうざん」(氷山)と「しょうざん」(焼残)の差異があり、・・・、前記のような格別の観念を有する語にあっては、特に正確に称呼され』称呼非類似であると認定し、原審決を取り消した。

以 上

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