米国特許「Impression Products Inc. v. Lexmark International Inc.」最高裁判決|newpon特許商標事務所

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制限付き販売と国際消尽 Lexmark事件最高裁判決

Impression Products Inc. v. Lexmark International Inc.
No. 15–1189. Argued Mrach 21, 2017—Decided May 30, 2017

事実の概要

 米国特許は、特許権者に対し、他人が「その発明を米国で製造し,使用し,販売の申し出をし、もしくは販売し、または当該発明を米国に輸入することを排除する」権利を付与している[§154(a)]。特許権者の権限のない行為を実施する者は、特許侵害の責任を負う[§271(a)]。しかし、特許権者がその製品の1つを販売するとき、特許権者は特許法により当該製品をコントロールすることができなくなる。このことは、特許権が「消尽」したといわれる。

 答弁者Lexmark社は、カートリッジの構成要素とそれらが使用される方法をカバーする多くの特許を所有し、米国および海外の消費者にトナーカートリッジを設計し、製造し、販売している。Lexmark社がトナーカートリッジを販売するとき、消費者に2つの選択肢を提供している:① 無制限かつ全額でトナーカートリッジを購入すること、 ② Lexmark社の返却プログラムを通して廉価でカートリッジを購入すること。より安い価格と引き換えに、返却プログラムで購入した消費者は、カートリッジを一度だけ使用し、Lexmark社以外の者とカートリッジの交換をすることが禁止される。

 再製造者として知られている会社は、返却プログラムカートリッジを含めて空のLexmarkトナーカートリッジを米国の購入者から購入し、トナーを補充して再販売する。彼らは、海外の購入者から取得して米国に輸入するLexmarkカートリッジでも同じことをしている。Lexmark社は、次の2グループのカートリッジに関する特許侵害について、Impression社を含む多くの再製造者を訴えた。第1のグループは、Lexmark社が米国内で販売した返却プログラムカートリッジで構成される。Lexmarks社は、これらのカートリッジの再使用と再販売を明示的に禁止しているため、Impressionプロダクツは、Lexmark特許を改装して再販売するときに侵害したと主張した。第2のグループは、Lexmark社が海外で販売したすべてのトナーカートリッジとその国に輸入されたImpression製品で構成される。Lexmark社は、これらのカートリッジを輸入する権限を誰にも与えていないので、Impressionプロダクツは特許権を侵害すると主張した。

  Impressionプロダクツは、Lexmark社が米国内および海外で販売したことによりカートリッジの特許権が消尽したので、Impressionプロダクツは無償で再装して再販売し、もし海外で購入されたならば輸入することができると主張し、却下を提起した。地方裁判所は、国内の返却プログラムカートリッジに関しては却下(国内消尽是認)したが、海外で販売されたカートリッジについては否定(国際消尽否認)した。CAFCの大法廷は、いずれのグループのカートリッジに関してもLexmark社を支持した。CAFCは、Lexmark社が国内で販売している返品プログラムのカートリッジから、特許権侵害訴訟を通して、特許権者が商品を販売し、販売後の使用または再販売に関する合法的な制限を執行する権利を保持することを認めた。Impressionプロダクツは、Lexmark社の規制を知っており、そして、この規制がいかなる法律にも違反していなかったことからすると、Lexmark社の販売によって特許権は消尽していない。したがって、Lexmark社はImpressionプロダクツを侵害で訴えることができる。
 Lexmark社が海外で販売したカートリッジに関して、CAFCは、特許権者が海外に製品を販売するとき、その品目について特許権が消尽しないことを支持した。したがって、Lexmark社が海外で販売したカートリッジをImpressionプロダクツが輸入したとき、Lexmark社は侵害訴訟を提起することができる。ディク裁判官はヒューズ裁判官とともに反対意見を述べた。

判 旨

 最高裁は、CAFC大法廷の判決を取り消した。特許権者が製品を販売したならば、消尽論により、もはや当該製品を特許法によりコントロールすることはできない。外国での販売によっても特許権は消尽し、また、明示的な条件があっても消尽すると判示した。

1. Lexmark社は、米国内での販売により返却プログラムカートリッジについての特許権を消尽させた。特許権者が課すと主張するいかなる制限にもかかわらず、特許権者が製品を販売すれば、その品目に係るすべての特許権は消尽する。その結果、Lexmark社と顧客の間の契約の制限が契約法の下で明確かつ執行可能であったとしても、Lexmark社は販売した品目について特許権を主張する権利を有さない。

(a) 特許法は、特許権者に対し「他人が発明品を製造し、使用し、販売の申し出をし、または販売することを排除する権利」を付与する[35 U. S. C. §154(a)]。160年以上にわたり、特許消尽のルールは、排除する権利に制限を課してきた:特許権者が特許品を販売すると、その製品は、もはや[特許]独占の範囲内になくなり、代わって、購入者の「個別の財産」となる( Bloomer v. McQuewan, 14 How. 539, 549 - 550)。もし特許権者が購入者の使用権を制限した契約を交渉したならば、製品を再販売したりするとき、契約法上の制限を適用することはできる。しかしながら、特許権侵害訴訟はできない。
 消尽ルールは、特許権が譲渡の拘束についてコモンローの原則に帰着することを示している。特許法は、発明者が発明の財産的報酬を確保することができるようにすることによって、イノベーションを促進する。一旦特許権者が特許製品を販売すると、その報酬が確保される。特許法は一度販売された製品の使用とその享受について制限する根拠を提供していない。さらなる制限を許すことは、「譲渡された動産の拘束を認めない慣行法」に反する(Kirtsaeng v. John Wiley & Sons, Inc., 568 U. S. 519, 538)。コークス卿は、17世紀に「もし、所有者が販売後に商品の再販売または使用を制限すると、その制限は無効である。」[1 E. Coke, Institutes of the Laws of England §360, p. 223 (1628)]という。
 本法廷は、たとえ特許権者が明示的な法律上の制限の下で製品を販売したとしても、特許権者は当該製品について特許権を保持しないことを長い間主張してきた。たとえば、Quanta Computer, Inc. v. LG Electronics、Inc., 553 US 617参照。そして、この事例においてよく知られている先例では1つの答えしか許されていない:Lexmark社は、米国で販売された返却プログラムカートリッジについてImpressionプロダクツに対して特許侵害訴訟を提起することはできない。Lexmark社がこれらのカートリッジを一旦販売した後は、特許法によってそれらをコントロールする権利を失ったからである。

(b) CAFCは、消尽のルールが特許侵害法(何人も特許権者の許諾のない特許製品を使用または販売することを禁じている。)の解釈であることを前提としたから、異なる結果に達した。CAFCによれば、消尽は、製品の販売が購入者の使用と再販売に対して仮の許可を与えるというデフォルト規則を反映している(816 F. 3d 721、742)。しかし、特許権者が購入者の権利を明示的に制限するならば、特許権者は特許侵害訴訟を通してその制限を強制することができる。

 CAFCの論理は、消尽のルールが売却に伴う許可を前提していないことが問題である;それは、特許権者の権利範囲の制限である。特許法は、特許権者に一定の排他権を与え、消尽はその権利を消滅させる。特許権者から慣行による許可を購入したのではなく、所有権に伴う権利であるため、購入者は、購入した製品を使用し、販売し、または輸入する権利を有する。

2. Lexmark社は、また、海外でトナーカートリッジを販売している。Impressionプロダクツは、これを購入者から取得し、米国に輸入したものである。Lexmark社は、これらのカートリッジに関するImpressionプロダクツを侵害として訴訟を提起することはできない。米国外での正当な販売は、米国内と同様に、特許法に基づくすべての権利を消尽する。

 知的財産権の国際的消尽に関する問題は、著作権法において生じている。ファースト・セール・ドクトリンでは、著作権者が合法的に作成した著作物のコピーを販売すると、「そのコピーを売却する、または別の方法で処分する」という購入者の権利を制限する権限が失われる(17 U.S.C.§109(a))。上記Kirtsaeng事件において、連邦最高裁は、ファースト・セール・ドクトリンは海外で製造され、販売された著作物のコピーに適用されると判決した。この決定の根幹は、ファースト・セール・ドクトリンが、譲渡制限に対するコモン・ローの原則に根ざしているという事実である。この原則は地理的な区別がなく、著作権法はそのような区別をしていないため、ファースト・セール・ドクトリンを直接適用すると、海外においての適用されると結論できる。

 外国の販売に特許消尽を適用することは直接的である。特許消尽も、譲渡制限に対する反感に根ざすものであり、特許法において、議会がこの原則を国内販売に限定しようとしていることを示すことはできない。特許消尽と著作権のファースト・セール・ドクトリンを区別することは、理論的または実用的な意味を持たない。2つは、「強い類似性 ・・・ と目的の同一性」を共有している。Bauer & Cie v. O'Donnell, 229 U.S. 1, 13, および、多くの日常品は、特許と著作権の保護の対象である。

 Lexmark社は、特許法が、他国の製品の製造、使用、販売または輸入が米国内で行われる行為を排除するという特許権者の権利を制限するので、海外販売が特許権を消尽しないと主張する。これらの排他権は海外では適用されないので、特許権者は米国と同じ価格で海外で製品を販売することができない可能性があり、したがって、米国特許法によって保証された報酬を受け取ることはできない。この報酬がなければ、Lexmark社は消尽しないとう。

 特許権の領域制限は、著作権保護と区別する基礎ではない;それらには治外法権の効果もない。Lexmark社の議論は領土の制限によっても支持されない。消尽は、特許付与の明確な制限であり、特許権者が決定した手数料を問わず、特許明細書を提出することによって生じる。特許権者は、米国と同じ金額を海外でも指定することができないことがあり得る。しかしながら、特許法は特定の価格を保証するものではない。その代わりに、特許法は、特許独占の範囲を迂回するすべての製品について、特許権者が満足のいく補償とみなす報酬を1回受け取ることを保証するだけである。

  Boesch v. Gräff, 133 U.S.697における裁判所の判決は、これと矛盾しない。この判決は、Lexmark社が主張するように、すべての外国売上高を特許消尽から免除するものではない。代わりに、特許権者が取引と関係がないとき、海外販売が特許権者の権利を消尽しないと決定した。これは、特許権者だけが、製品についての特許権を消尽する販売をするか否かを決定できるという基本的な前提を再確認している。

 最後に、米国は中立的な立場であると見ていることを主張する:すなわち、特許権者が明示的にそれらの権利を留保しない限り、外国での販売は特許権を消尽する。この明示的留保ルールは、海外の販売者が製品を自由に使用し再販売できると考えていることを前提としているため、消尽を推定する必要がある。しかし、同時に、下級裁判所は、特許権者が権利を明示的に留保することを長い間認めているので、選択権は特許権者にある。しかし、政府が言及している疎と矛盾した決定(sparse and inconsistent decisions)は、特許権者が海外で販売するときに、特許権者が権利を留保することができる、決定されたものではないが、いかなる期待の根拠も提供していない。明示予約ルールの背後にある理論は、販売中の特許権者と購入者の期待に誤って焦点を当てている。特許の消尽については、契約によって解決できる当事者間の取引よりも多くの問題が懸念される。代わりに、既に販売され、市場に出回っている製品に特許権を許すことは、譲渡の制限ついての原則に反するため、消尽が生じる。その結果として、制限と場所は、特許消尽とは無関係である;重要なのは、特許権者の販売決定である。

 ROBERTS, C. J., delivered the opinion of the Court, in which KENNEDY,THOMAS, BREYER, ALITO, SOTOMAYOR, and KAGAN, JJ., joined. GINSBURG,J., filed an opinion concurring in part and dissenting in part.
 GORSUCH, J., took no part in the consideration or decision of the case.

検 討

 米国最高裁判所は、特許権の消尽についての2つの重要な論点に関し、CAFCの判決を破棄した。

 国内での制限付き販売(post-sale restrictions)

 特許製品を再使用または再販売することについて購入者の権利に関し明示的な制限を定めた場合、当該製品を販売した特許権者が、侵害訴訟を通じてその制限を強制することができるか否かについて、当該製品においてすべての特許権は消尽しているので、特許権に基づく権利行使を否定した。

 ここで、特許権の消尽(the doctrine of patent exhaustion)とは、特許製品が、特許権者や実施権者などの権原を有する者によって適法に流通に置かれた後は、その製品について特許権を行使することはできないという考え方(上記Bloomer判決)であり、国内での制限付き販売とは、特許権者が国内で特許製品を販売するにあたり、契約によって各種の制限を付すことをいう。

 コモンローには、不動産の譲渡制限(restraints on alienation)は無効という考え方があり、本判決は、特許権の消尽は、特許権の排他力が譲渡制限を無効とするコモンロー上の原則に屈する(yield)。 "This well-established exhaustion rule marks the point where patent rights yield to the common law principle against restraints on alienation."
 特許権は、権原を有さない者による特許製品の製造・販売を排除する権利であるため、法律が認めた譲渡制限の権利ということができるため、特許製品が譲渡されることにより、当該製品は「私的かつ個人の財産(private, individual property)」となり、譲渡制限から脱する(上記Bloomer判決)。
 具体的には、「特許製品の使用を1回のみとし、転売を禁止する顧客との契約(制限規定)が明確であり、契約法上有効であるとしても、当該制限規定によって、特許権者が自ら販売した製品について特許権を保持し続けることは認められない。」として、CAFCの判決を破棄した。

  わが国では、特許権の消尽と消耗品のリサイクルをめぐって、インクカートリッジ最高裁判決(最判平成19年11月8日)が存在する。この判決では、リサイクル製品の適法性については、リサイクルを行うことが特許製品の「新たな製造」に該当するか、という基準で判断され、「新たな製造」にあたる場合には、すでに特許権が消尽した製品とは別の製品が生み出されたとみることができるので、リサイクル品に対して特許権を行使することができると判示した。

 特許権の国際消尽

 特許権の国際消尽とは、特許製品が海外で流通に置かれた場合にも、該製品が特許権者や実施権者などの権原を有する者によって適法に置かれた場合には、その製品について特許権を行使することはできないとする考え方をいう。特許権は各国が与える権利であり、その効力は原則として自国の主権が及ぶ地域にしか及ばないため、その地域外で特許製品が流通に置かれた場合にも特許権が消尽するという考え方は、一般的には認められていない。

   わが国では、BBS最高裁判決(最判平成9年7月1日)において、国内消尽を認めつつも、国際消尽については否定し、黙示的承諾の考え方に基づいて、原則的として特許侵害にならない(並行輸入)が、特許権者が「譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域からわが国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合」には特許権を行使できると判示した。

 米国連邦最高裁は、上記Kirtsaeng判決において、著作権の国際消尽を認めた。この判決は、消尽の考え方の背景にあるのは譲渡制限の無効であるとした上で、コモンロー上の法理は地理的な区別をしない、という理由で国際消尽を認めた。
 本判決では、上記Kirtsaeng判決を参照し、そもそもコモンロー上、消尽に地理的制限はなく、著作物を販売した時点で、購入者が以降販売する自由を制限する権限は失われることを明確にしたうえで、特許権と著作権に相違を認めることはあまり意味がなく、むしろ両者は類似し、多くの生活品にその双方が含まれているとの見解を示した。 

 参考文献:

 1) 制限付き販売と国際消尽~国際消尽に関する米国最高裁判決~ 米国特許判例紹介(137) 2017・6・16 弁理士 河野 英仁
 2) 最高裁、Impression Products Inc. v. Lexmark International Inc.事件 CAFC 判決を覆す  (2017・6・29 JETRO 柳澤、丸岡)

以 上

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