第三者が登録商標を無断で使用した場合は、商標権の侵害に当たります。しかしながら、商標の使用という考えには、難しい点があります。ここでは、商標の使用について、一般的な事項をご紹介いたします。
わが国の商標法は、「標章の使用」について定義しています(商標法2条3項各号)。そして、「標章の使用」を商品と役務の場合について規定しています。なお、商標は、商品・役務について使用する標章です。「商品」とは、商取引の目的物たり得べきもの、特に動産で、ある程度量産可能なものをいいます。「役務」とは、他人のために行う労務又は便益のことをいい、通常サービスといわれているものです。
(1) 商品又は商品の包装に標章を付する行為(1号)商品自体又はその包装に標章を表示したり、標章を表示したラベルやタグと取り付けたり、商品自体又はその包装を標章の形状とする行為です。
(2) 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(2号)
譲渡とは、所有権の移転であり、無償の場合であっても所有権の移転を伴えば譲渡に該当します。引き渡しとは、現実の支配の移転、展示とは、一般に示すことです。輸出は、輸出の前に国内で譲渡が行われるという理由で従来は入っていなかったが、平成18年改正によって追加されました。
(1) 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為(3号)
役務(サービス)は、無形ですから、直接標章を付することはできませんが、役務を提供する際に物を利用する場合に、その物に標章を付する行為をいいます。例えば、旅客輸送サービスにおける車両、銀行の預金サービスにおける通帳、飲食サービスにおける食器に標章を付する行為が該当します。この物には、需要者に譲渡し、又は貸し渡す物が含まれます。例えば、クリーニングサービスにおけるクリーニングの袋、レンタカーサービスにおける自動車が該当します。
(2) 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(4号)
例えば、標章を付した車両にて旅客輸送サービスを行うこと、標章を付した通帳を用いて銀行預金サービスを行うこと、標章を付した食器を用いて飲食サービスを行うことが該当します。
(3) 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(5号)
役務の提供の用に供する物に標章を付したうえ、これを役務の提供のために展示する行為です。役務の提供の用に供する物には、役務の提供者が用いる物と、需要者が用いる物の両方が含まれます。例えば、コーヒーショップにおいて、(店員が使用する)標章を付したコーヒーメーカーを店内に設置する場合、及び(需要者が使用する)標章を付したコーヒーカップを店内に並べる場合です。
(4) 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為(6号)
役務提供者が需要者の物に標章を付することも標章の使用です。例えば、クリーニング業者がクリーニングした顧客の衣類に自らの役務標章を表示したラベルを付する行為です。
(5) 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為(7号)
電磁的方法ですから、インターネットのような電気通信回線を通じて行われる場合のみならず、一方向しか情報を送信できない放送による場合も含まれます。「その映像面」ですから、役務提供時の映像面と標章を表示する映像面が密接に関連することが必要です。
商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(8号)
いわゆる商標の広告的使用です。広告、媒体の種類を問いません(現在では、音声のみを用いた宣伝行為は該当しませんが、音の商標の導入により侵害が認められる場合もあると考えます。)名刺に標章を付することは、「商品若しくは役務に関する広告」ではありませんので、8号の使用には該当しません。
平成8年に立体商標制度が導入されました。そして、商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告などを標章の立体的形状とすることが、標章を付すること、つまり立体商標の使用になります(2条4項)。
上記の標章(商標)の使用は、使用の概念を定めているものです。上記概念に含まれる商標の使用であっても、商品・役務の出所を表示するものでない場合には、出所表示機能を発揮する商標としての使用ということはできません。このような形式的な商標の使用の場合には、その商標は保護されない(商標法26条1項6号)ばかりか、不使用取消審判によって登録が取り消されることがあります。
商標の使用についての概略が理解できましたでしょうか?
商標権の効力が制限される場合や商標権の侵害について何か疑問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。