商標登録を行うには様々な条件をクリアする必要があります。大きくわけて2つあります。第1はいわゆる特別顕著性があること(一般的登録要件あるいは積極的要件)です。第2は主として公益的見地や私益の保護の立場から、商標登録の具体的的確性を問題とするもの(具体的登録要件あるいは消極的要件)です。
商標法上の商標(商標法2条1項)が、自他商品・役務識別力、すなわち特別顕著性を具備することです。この特別顕著性は、旧法1条2項における意義の解釈について、自他商品・役務識別力の意味に解し、その結果、商標の構成が顕著でなくとも、使用により自他商品・役務識別力を有するに至った商標の登録を認めています。特別顕著性は、商標の本質ですから、3条に規定されています。
自他商品・役務識別力は、具体的な商品・役務間の問題であり、商品との関係で判断されます。また、登録査定時を基準として判断されますので、過去の登録例は参考にはなりません。
普通名称とは、取引界において、その商品・役務の一般的名称として認識されている言葉です。したがって、一般消費者によって、商品・役務の一般的名称として認識されるだけでは足りないし、また、一地方において、一般的名称として認識されていればよく、必ずしも国民一般において認識される必要はないとされています(紋谷・商標法50構)。
例えば、商品「飴菓子」について「キャンディ」、商品「節分用巻き寿司」について「招福巻」、役務「総合小売」について「百貨店」です。普通名称には、商品・役務の略称・俗称も含まれます。「板チョコレート」について「板チョコ」、「塩」について「浪の花」などです。商標権者の不十分な管理によって、普通名称となることもあります。「赤ちん」、「正露丸」、「エスカレータ」などです。(これを、登録商標の普通名称化といいます。)
慣用商標とは、特定種類の商品・役務について、不特定多数の同業者によって長年使用されている商標です。したがって、特定種類の商品・役務と他の種類の商品・役務とを区別することはできても、特定種類の商品・役務について自他商品・役務識別力を持たない商標です。例えば、商品「清酒」の「正宗」、商品「カステラ」の「オランダ船」、役務「興業上の座席の手配」の「プレイガイド」があります。
慣用商標は、2・3の同業者又は同一の商標登録の存在だけでは足りません。しかし、それは、一地方において、同業者によって慣用されていればよく、必ずしも全国的に慣用されている必要はありません。
商品・役務の特性を記述する目的をもって表示される商標です。現実に取引上使用されている必要はなく、記述的商標と認められる以上、現実の使用事実は不要です。記述的内容を暗示する商標(間接的に表示する商標)は、本号に該当しないとされています(審査基準改訂第10版第1 第3条第1項五(同項第3号))
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記述的商標は、一般的に自他商品・役務識別力を欠く場合が多く、かつ何人にとっても必要な表示であって、個人に独占させるのは不適当ですから、商標登録を受けることができないとされています。等級、色彩の表示、説明語句などは記述的商標です。記述的商標であっても、特殊な態様によって表示し、又は商標の一部として一体不可分に結合した結果、商標登録を受けることができる場合があります。
氏とは、氏姓であり、氏名ではありません。名称とは、個人の名前だけではなく、法人名・団体名・商号・雅号・芸名・筆名・屋号及びそれらの略称も含みます。ありふれたとは、同種の氏や名称が電話帳などに相当数存在することです。なお、外国人の「氏」は4号に該当しないとされています。
極めて簡単な標章又はありふれた標章であれば5号に該当します。簡単な図形・記号(△・□)、仮名文字の1文字、ローマ字の1又は2字、数字などです。
自他商品・役務識別力の一般条項(総括規定)です。例えば、地模様、キャッチフレーズ、「Net」、「Gross」等数量的に用いられる文字、現元号、アルコール飲料などの飲食物の提供役務について「愛」、「純」、「ゆき」、「蘭」、「オリーブ」などです。
3条1項3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができます(3条2項)。
商標の永年使用の事実によって、その商品・役務と密接に結合されて出所表示機能を持つに至ったものを保護する趣旨です。
3条1項3号から第5号までに該当するものに限定されていますので、普通名称や慣用商標については除外されています。また、使用による商品・役務識別力は、継続して使用された商標及び商品・役務以外の商標や商品・役務には拡張されません。なお。特定人の事業に係る商品・役務であることの認識は不要です。
自他商品・役務識別力を具備した商標が法定の不登録事由に該当しないことです。不登録事由の種類としては、絶対的不登録事由と、事情により登録される相対的不登録事由があり、また、公益的不登録事由と私益的不登録事由があります。不登録事由の判断は、原則として、登録査定時を基準とします。したがって、不登録事由が出願時にあっても査定時までに消滅すれば、商標登録を受けることができます。しかしながら、4条1項8・10・15号については、出願時においても登録要件を具備していることが必要です(4条3項)。
社会の秩序・道徳的秩序を維持する趣旨の規定です。査定時に該当しなくても、登録後に該当することになったときは、その商標権は無効理由を有することになります。
商標によって、需要者が商品・役務の品質を誤認して、商品を購入したり、役務の提供を受けることがないように、需要者の保護を図る規定です。「誤認を生ずるおそれ」ですから、商標と商品・役務との関係で客観的に誤認を生ずる蓋然性があれば足ります。
「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は登録を受けることができません。これを許すと、その商品の生産や販売を商標権者に独占させることになるからです。「その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状」とは、丸くせざるをえない自動車のタイヤや球技用のボールなどです。
商品の形状や商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識される立体商標は、自他商品識別力を欠き、登録を受けることができません(3条1項3号)。これらの商標であっても使用により識別力を獲得するに至った場合には、登録されます(3条2項)。しかしながら、このような商標であっても、その商品の機能を確保するために採らざるを得ない不可避的な立体的形状のみからなる場合は登録を受けることができないという規定です。
「不可欠な立体的形状のみからなる」ですから、不可欠な立体的形状をその構成の一部に含む商標には適用されません。このような商標が登録されても、26条の規定により、「不可欠な立体的形状」には商標権の効力は及びません。
「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」は登録を受けることができません。査定時に8号に該当しても、出願時に該当しない場合には、適用されません。つまり、8号は、出願時にも査定時にも該当している必要があります。8号違反は無効理由になる他、商標権者の権利行使は制限されます(26条1項1号)。
肖像あるいは戸籍簿で確定される氏名、登記簿に登記される名称と異なり、雅号等はある程度恣意的なものですから「著名な」ものに限られます。「氏名」はフルネームを意味します。したがって、氏又は名のうちいずれか一方のときは本号の適用はありません。「これらの著名な略称」とは、氏名、名称、雅号、芸名及び筆名の略称の意味です。例えば、自己の名称と他人の名称とが同一の場合は、自己の名称についても本号の適用があります。外国人の氏名、名称も含まれます。
本号は人格権保護の規定です。当該他人の承諾がある場合には、人格権を害することにならないので、登録が認められます。
商品又は役務の出所の混同防止とともに、一定の信用を蓄積した未登録周知商標の既得の利益を保護する規定です。
商品又は役務の出所の混同防止を趣旨とします。その出願より後の出願に係る登録商標があっても本号では拒絶されません。8条1項違反の先登録商標によって、先願商標が拒絶されるのは不当だからです。また、この場合以外にも過誤によって二重登録される場合はあり得ますが、その場合は無効審判等でいずれかが無効とされない限り両者とも同等の権利をもつとされています(逐条解説)。
防護標章登録を受けたときは他人のその標章の使用は商標権の侵害とみなされるからです(67条1号)。防護標章登録を受けている標章に類似する標章について規定しなかったのは、類似の範囲に関してはその使用が侵害とみなされるわけではないからです。
種苗法は、登録品種の種苗を業として譲渡等するときの名称の使用義務及び登録品種又はこれに類似する品種以外の種苗を業として譲渡等するときに登録品種の名称の使用禁止を規定することから(同法22条)、登録品種の名称をその品種の種苗又はこれに類似する商品・役務について使用する商標を商標登録の対象から除外しました。種苗法により登録された品種の名称は、一般に普通名称化すると考えられますので、同法による登録が消滅した後においても同様に商標登録の対象から除外されます。したがって、たとえ種苗法により登録を受けた本人が出願しても登録されません。
10号から14号までの規定に関する総括条項です。査定時に15号に該当しても、出願時に該当しない場合には、本号の適用はありません。つまり、15号は、出願時にも査定時にも該当している必要があります。
17号の不登録事由は、① 日本国のぶどう酒若しくは蒸留酒の産地のうち特許庁長官が指定するものを表示する標章を有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒について使用するもの、② 世界貿易機関の加盟国のぶどう酒又は蒸留酒の産地を表示する標章のうち、当該加盟国において当該産地以外の地域を産地とするものに使用することが禁止されている標章を有する商標であって、当該産地以外の地域を産地とするものについて使用するものについて適用されます。
ワイン・スピリッツの保護規定です。著名性は必要ありません。
国内外で周知な商標と同一又は類似の商標を不正の目的で使用するものが該当します。すなわち、主として、外国で周知な商標について外国での所有者に無断で不正の目的をもってなされる出願・登録を排除すること、さらには、全国的に著名な商標について出所の混同のおそれがなくても出所表示機能の稀釈化から保護することを目的とします。
「不正の目的」とは、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」のことです。つまり、図利目的・加害目的をはじめとして取引上の信義則に反するような目的のことをいいます。「不正競争の目的」とせず「不正の目的」としたのは、取引上の競争関係を有しない者による出願であっても、信義則に反するような不正の目的による出願については商標登録すべきでないからです(逐条解説)。
例えば、
① 外国において周知な他人の商標と同一又は類似の商標について、我が国において登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせたり、外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約を強制したりする等の目的で、先取り的に出願した場合、
② 日本国内で商品・役務の分野を問わず全国的に知られているいわゆる著名商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願した場合、
③ その他日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的で出願した場合、
などは「不正の目的」があると判断されます(逐条解説)。
このように、商標登録の要件は、商標法に詳細に規定されています。しかしながら、不明な点があれば、弁理士に問い合わせてください。可能な限り、ご要望にお答えします。