登録商標であっても、商標が使用されないままでは、その商標に使用化体されませんから、保護の実体が形成されません。そればかりか、第三者の商標選択の余地を狭めてしまうという不都合が生じます。また、商標が不正に使用されるような場合には、その商標権を取り消すことが公共の利益になります。このため、商標登録取消審判制度が設けられています。
商標登録取消審判によって商標登録の取消し審決を受けた権利者及び自らの主張が認められなかった請求人は、その決定に不満の場合には訴え(審決取消訴訟)を提起することができます。
商標登録取消審判には、その目的によって、次の5種類の審判があります。
いずれの審判においても、審判請求書の副本が被請求人(商標権者)に送達され、被請求には答弁書提出の機会が与えられます。その後、審理終結通知が発せられ、審決がなされます。商標登録を取り消すべき旨の審決(取消審決)が確定すると、その後、商標権は消滅します。
商標の保護は、商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるものですから、一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか、あるいは発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなると考えられます。また、このような不使用商標に登録商標としての権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつ、その存在により権利者以外の商標の選択の余地を狭めることとなります。
そこで、請求をまってこのような商標登録を取り消そうというのが趣旨です。
何人も請求することができます(50条1項)。公益的重要性が一層高くなったこと、利害関係を作ろうと思えば出願や使用により容易に作れること、諸外国においても「何人」にも請求を認めている例が少なくないことなどの理由からです。
継続して3年以上、日本国内において、商標権者等が指定商品・役務について、登録商標の使用をしていないときは、審判を請求することができます(50条1項)。
登録商標には、登録商標と社会通念上同一と認められる商標が含まれます。これらについても自他商品(役務)の識別機能を果たすからです。例えば、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標です。
登録商標の使用は被請求人(商標権者)が証明することが必要です(50条2項)。つまり、被請求人が挙証責任を負担します。審判の請求前3月から請求登録の日までの間に、日本国内において商標権者等がその請求に係る指定商品・役務についての登録商標の使用をした場合であって、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは、登録商標の使用になりません(50条3項)。
いわゆる「駆け込み使用」を禁止し、譲渡交渉、ライセンス交渉等をし易くするためです。
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、審判の請求の登録の日に消滅したものとみなされます(54条2項)。不使用取消審判により取り消された商標登録に係る商標は、保護すべき信用が発生していないか、又は一度発生した信用も消滅しているものですから、審決確定日以前についても、このような実体のない商標の登録が維持され、これに基づいて損害賠償の請求等が行われるのを認めることは適当ではないからです。
商標権者は指定商品・役務について登録商標の使用をする権利を有しますが、指定商品・役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品・役務に類似する商品・役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は、法律上の権利としては認められていません。他の権利と抵触しない限り事実上の使用ができるだけです。そこで、このような禁止権の範囲内での商標の使用であって商品(役務)の品質(質)の誤認又は出所の混同を生ずるおそれがあるものの使用を故意にしたときには、請求により、その商標登録を取り消すこととしたのです。
これは商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨です。
何人も請求することができます(51条1項)。一般公衆の利益が害されるような事態を防止するという公益性があるからです。
商標権者が故意に、いわゆる禁止権の範囲内での商標の使用であって商品(役務)の品質(質)の誤認又は他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるものをしたときは、審判を請求することができます(51条1項)。
商標権者の商標の使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は、請求することができません(52条)。
不当な使用をやめて5年以上経過すれば、その間の使用によって信用が当該商標に蓄積され、それを5年以上経過してから取り消すのは、たとえ過去に商標の不当な使用があったとしても、その後の正当な商標の使用による信用を破壊することとなり妥当ではないからです。
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅します(54条1項)。
平成8年の一部改正で連合商標制度廃止に伴って分離移転が認められ、及び類似関係にある商品・役務についても商標権の分割移転を認められたこと(24条の2)に対応する誤認混同防止のための担保措置の1つとして設けられました。
何人も請求することができます(52条の2第1項)。誤認混同防止という一般公衆の利益が害されるような事態を防止するという公益性があるからです。
商標権が移転された結果、同一の商品・役務について使用をする類似の登録商標又は類似の商品・役務について使用をする同一・類似の登録商標に係る商標権が異なった商標権者に属することとなった場合において、その一の登録商標に係る商標権者が不正競争の目的で指定商品・役務についての登録商標の使用であって他の登録商標に係る商標権者等の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるものをしたときは、審判を請求することができます。
自己の登録商標の使用であっても、不正競争の目的で他の類似関係にある登録商標の商標権者等の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる使用をしたときは、その制裁として、そのような使用をした登録商標に係る商標登録全体が取り消されます。
「不正競争の目的」があるかどうかは、使用の動機、使用の目的、使用の実態、周知性の程度、混同の有無等の要因を総合勘案して個々具体的に判断されます。
商標権者の商標の使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は、請求することができません(52条)。
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅します(54条1項)。
商標権者から使用許諾を受けた専用使用権者又は通常使用権者が、指定商品・役務又はこれらに類似する商品・役務について登録商標又はこれに類似する商標を不当に使用して需要者に商品(役務)の品質(質)の誤認や商品・役務の出所の混同を生じさせた場合における制裁規定です。現行法では自由に使用許諾が認められましたが、このことに対する弊害を防止する趣旨です。
何人も請求することができます(53条1項)。誤認混同防止という一般公衆の利益が害されるような事態を防止するという公益性があるからです。
専用使用権者又は通常使用権者が指定商品・役務又はこれらに類似する商品・役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるものをしたときは、審判を請求することができます(53条1項)。
商標権者は使用許諾にあたって自己の信用保全のため通常の場合十分な注意をするだろうけれども、もしそうでない場合には登録商標の取消しをもって、そのような無責任な商標権者等に対する制裁を課することとして、使用許諾制度の濫用による一般需要者への弊害防止の手段としています。
商標権者の商標の使用の事実がなくなった日から5年を経過した後は、請求することができません(52条)。
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅します(54条1項)。
パリ条約6条の7では、同盟国において商標に係る権利を有する者の代理人又は代表者が、その商標に係る権利を有する者の許諾を得ないで商標登録出願した場合には、その商標に係る権利を有する者は、登録異議の申立てや登録無効を請求することができます。53条の2の取消審判は、パリ条約6条の7に対応したものです。
商標に関する権利を有する者が請求することができます(53条の2第1項)。この者の不利益を排除するものだからです。
次の①~④を満たすときは、審判を請求することができます(53条1項)。
① 登録商標が、パリ条約の同盟国、WTO(世界貿易機関)の加盟国、商標法条約の締約国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であること
② この権利に係る同一・類似する商品・役務とするものであること
③ その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでされたこと
④ その商標登録出願の日前1年以内に代理人又は代表者であった者によってされたものであること
ただし、その商標権の設定の登録の日から5年を経過した後は、請求することができません(53条の2)。
商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは、商標権は、その後消滅します(54条1項)。
商標登録に関する法律上の争いは国内外問わずあるものです。その際、法律を知っているのと知らないのとでは、主張・行使できる権利に大きな差が出ます。お客様にとって大事な権利を守るために、弊所を商標登録のプロとしてご活用下さい。