商品・役務の出所の混同を生ずる範囲は、商標の著名度などにより変動する流動的なものですが、商標登録に際して使用の事実を問わない登録主義(18条)の下では、具体的出所の混同の範囲を判断することは困難です。そこで、商標登録の場面では、商標の類似範囲を一般的な出所の混同の生ずる範囲と擬制して画一的な処理を行っています(4条1項11号等)。一方、登録商標の類似範囲内での使用は商標侵害を構成しますから、商標及び商標・役務の類否は、侵害訴訟の場面でも重要な概念となります(37条1号)。
商標の類否は、同一又は類似商標を付した場合に出所の混同を引き起こす程度に似ているか否かによって判断され、商標自体の類似とその商標を使用する商品・役務の類似によって判断されます。
(1) 商標の類似は、対比される商標が同一・類似の商品・役務に使用される場合に、商品・役務の出所の混同を生じるおそれがあるかどうかによって判断されます。そして、商標の類否判断においては、商標の外観、称呼、観念に商品・役務の取引の実情を考慮して総合的に判断されます。
需要者は、文字、図形等からなる商標(2条1項)を、視覚、聴覚、知覚のいずれかを通じて認識しているので、伝統的に、外観・称呼・観念の3態様を要素として判断しています。
(1) 商品・役務の類否は、取引上の通念によって判定さるべきですから、商品・役務自体の類否ではなく、需要者・取引者が商品・役務の出所の混同を生ずるものであるか否かの意味に解すべきです。
(2) つまり、指定商品・役務が類似のものであるかどうかは商品・役務自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判定すべきではなく、商品又は役務が通常同一営業主により製造販売又は提供されている等の事情により、それらの商品・役務に同一又は類似の商標を使用するとき、同一営業主の製造販売又は提供にかかる商品・役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場合には、たとえ商品・役務自体が互に誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商標は類似の商品・役務にあたります(最判昭36年6月27日橘焼酎事件)。当該裁判は、東京高裁が清酒と焼酎とは使用者の感覚において鋭敏に区別され、営業者の常識としても彼此混同しないから非類似であるとした判決(東京高判昭33年10月7日)を覆しました。
(3) 商品と役務の間の類似
役務の提供が商品の製造・販売と同一事業者により行われるのが例であり、かつ、需要者の範囲が一致している等により、これらの役務と商品に同一の商標が使用される場合には取引者・需要者がその役務の提供も商品の製造・販売も同一の者によってなされるものであるかのように混同することが取引の経験則上明らかであるときは、このような商標が並存することにより、取引における秩序が乱されることになります。これは、商品間・役務間の類似の場合と同様です。そこで、「この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする」 と規定しました(H3年改正商標法2条5項)。
(4) 商品の類否を判断するに際しては、① 生産部門が一致するか、② 販売部門が一致するか、③ 原材料及び品質が一致するか、④ 用途が一致するか、⑤ 需要者の範囲が一致するか、⑥ 完成品と部品との関係にあるか について総合的に考慮します。
(5) 役務の類否を判断するに際しては、① 提供の手段、目的、場所が一致するか、② 提供に関連する物品が一致するか、③ 需要者の範囲が一致するか、④ 業種が同じか、⑤ 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じか、⑥ 同一事業者が提供するものであるか について総合的に考慮します。
(6) 商品と役務の類否を判断するに際しては、① 商品の販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的か、② 商品と役務の用途が一致するか、③ 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するか、④ 需要者の範囲が一致するか について総合的に考慮します。
自身では問題ないと思っていても、後日、他人の登録商標が存在することが分った場合には、その使用を止めざるを得ないことになることもあります。商標調査が重要です。商標専門の弁理士に依頼して、事前に商標調査を行いましょう。