特許庁の審査官の審査によって登録が認められた場合であっても、瑕疵ある権利が存在することがあります。審査官だけではなく、一般公衆によるチェックによって審査の確実を記する手段として登録異議申立制度があり、無効理由ある権利を遡及的に消滅させる手段として無効審判制度があります。
異議申立てが認められなかった異議申立人や無効審判の当事者は、その決定や審決の取り消しを求めて訴え(審決取消訴訟)を提起することができます。
登録異議申立制度は、商標権の設定登録後の一定期間に限り、広く第三者に商標登録の取り消しを求める機会を与える制度であり、第三者は、商標権の設定登録(商標掲載公報発行の日)から2か月以内に限り、特許庁長官に対して登録異議の申立てを行うことができます。
何人も登録異議の申立てをすることができます(42条の2)。権利の法的安定性を高めるという公益的理由により認められるものであり、利害関係人に限るべきではないからです。
商標法43条の2各号に列挙された理由が登録異議申立理由となります。登録の見直しを図るという趣旨から、原則として出願の拒絶理由(15項各号)と同じですが、一商標一出願の原則(6条1項)や指定商品・役務の指定(同条2項)は、異議申立理由にはなりません。先願優位の原則下、重複登録排除する8条1項は、拒絶理由ではありませんが、異議申立理由となっています。後願先登録商標を排除するためです。
審理の結果、異議申立理由がなく登録維持すべきと判断したときは、商標権者には何らの通知もありませんが、異議申立理由があり取り消すべきと判断したときは、取消決定の前にその理由が通知され、商標権者には意見書を提出して反論する機会が与えられます(43項の12)。
異議申立の決定には取消決定と登録要件決定があり、取消決定が確定すれば、その商標権は初めからなかったものとみなされます。取消決定に対しては、知財高裁(知的財産高等裁判所)にその取消訴訟を提起することができます(63条1項)。
商標登録無効審判は、瑕疵ある商標登録を無効とし、商標権を遡及的に消滅させることを目的とする準司法的手続です(46条)。本審判は特許権を無効にするための唯一の手続であって、裁判所その他の機関は、特許を無効にする処分をすることはできませんが、侵害訴訟において、被告が商標登録無効の抗弁を主張することは認められています(39条)。
審判の準司法的性格により、民事訴訟法の「利益なければ訴権なし」の原則が適用されるべきであるため、法律上の利害関係人に限られると解されています(46条1項)。
第46条1項各号に列挙された理由が無効理由となります。出願による権利を生じない者に対して商標登録がされたこと、及び後発的理由は無効理由(46条1項3,4,5号)ですが、異議申立理由ではありません。
登録後いつでも請求することができ、さらに商標権の消滅後も認められますが、私益的事由などについては登録後5年を経過すると請求できません(47条)。商標登録が過誤によってなされたときでも、一定の期間無効審判の請求がなく平穏に経過したときは、その既存の法律状態を尊重し維持するために無効理由たる瑕疵が治癒したものとしてその理由によっては無効審判の請求を認めない趣旨です。
無効審判の請求があったときは、被請求人には答弁書を提出する機会が与えられます。原則として口頭審理ですが、職権又は申立てにより書面審理とすることができます。無効審判は原則として審決によって終了します。請求認容審決と請求不成立審決があり、請求認容審決(無効審決)が確定したときは、商標権は初めから存在しなかったものとみなされます(46項の2第1項)。後発的無効理由の場合は、商標登録がその理由に該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます。商標登録そのものに瑕疵はなかったからです。
請求不成立審決が確定したときは、同一事実及び同一証拠に基づいて再び審判を請求することができません(一事不再理効)。
法律は適切に活用すれば私たちの権利を守ってくれるものです。商標として認められた権利を守るためには、権利が取消される場合についての知識を持っておくことも重要です。